ぽかぽかとした陽気で、思わずあくびが出てしまう。
4月の空は晴れ渡っていて、今日も朝練こなして体は若い業をひしひしとこなしている。
頭に巻いたタオルを閉めなおすと、見計らったように阿部がトイレから帰ってきて席についた。
「花井、オマエ甘いもんへーき?」
「え?なんで?」
コロン、と机の上に出されたまるいものに、花井は眉を歪める。
「・・・なんつったっけコレ」
「マカロン」
桜色マカロン
どうやら便所帰りの阿部に、1年のとき同じクラスだった女子が渡したらしいマカロンは
緑色のとピンク色。ふたつが仲良く並んでビニールにくるまれていた。
「しかしファンシーだな・・・」
「マジで食えんのかってカンジ」
高校生男子にはどうにも理解しがたい食料を目の前にムムムとうなってみても
とっつきにくさ満開なマカロンの可愛らしさは変わらない。
「・・・っつかなんで阿部もらってんの」
「しらねーよ、くれるっつったらもらうだろ」
「阿部にマカロンって・・・」
「なんかムカつくから黙れ花井」
三橋にでもあげれば?と言ってみたが、離れたクラスに行くのが大層面倒くさいらしく阿部は嫌な顔をした。
休み時間はあと4分。
「もーじゃあ食っちゃおうぜ」
こんな事でどうのこうのってそれこそ面倒すぎる。そう手を伸ばした瞬間
バイヴの音に携帯を取り出してみれば、愛しい名前が外画面に光っていた。
送信者:
件名:今日さあ
本文:練習行くんだけどなんか買ってくるものとかある?
付き合って2ヶ月ちょっと。年上の、自分の恋人。
「なに、さん?」
「え?」
ったく・・・メールくらいで嬉しそうな顔してんじゃねーよほんっとキモいなオマエ。
阿部のそんな超絶ブラックビターな顔にも気づかない。恋は盲目!ノー・ノー・ライフ!
ぺこぺこと返信しはじめた花井に、じゃあ俺さき食っちゃうぞーと阿部が手を伸ばすと
今まで試合でも見た事ないくらいの瞬時の反応で、花井はその手を制した。
「あ・・・あべっ」
「は?」
「ちょ・・・俺にくれよ、両方」
「ああ?んでだよ」
「んでもねーよ!」
てんで成り立ってない会話の途中
から「チヨちゃんと間違えた」とメールがきて、ワックワクの返信は打ち切り。
でもいいじゃない!そういいじゃない!!
今日がひやかしにでも練習に来るとなると・・・マカロン、あげたっていいじゃない!
例えソレが阿部の便所あがりのキッタネー手に渡ったものだったとしても。
マカロン食ってるさん、かわいいっぽいじゃん!お前だって見たいだろ??なあ??
そんなわけで緑とピンクのマカロンは細心の注意を払って花井の鞄の中で一時お休みとなった。
「え?なんで知ってるの?」
キョトンとした篠岡に、花井がぼんと顔を赤くする。
練習がはじまっていつまでたってもは来なくて、ほんっと来なくてあれあれ?ってなっちゃって。
おにぎりを持ってきた篠岡に恥を承知でコッソリ聞いてみたら、今日やっぱり来られなくなっちゃったんだって、といわれた。
「・・・フフ」
ギクッとして振り返ると、どこから盗み聞きしていたのか阿部が本当に嬉しそうにニヤニヤしている。
本当に何度も実感しているが・・・阿部は本当に察しが良いと思う。
俺がさんにあげるつもりでとっといたって気づいてたんだなこいつ・・・はっは〜んどうりでねえ・・・そんな声にならない会話のアイコンタクト。
わざとらしいくらいポンと背中を叩かれると、花井は泣きたいやら恥ずかしいやらで死んでしまいそうだった。
自転車を押す帰り道。
いつものコンビニで会計を済ませるとき探った鞄の中から
勢いあまって2つのマカロンがコロンと床に落ちてしまう。
「あー!花井、ナニコレ??」
田島が興味津々で拾い上げる。花井は反射的に顔を赤くして、それを奪った。
「んでもねえよ!」
「何?消しゴム??」
消しゴムって・・俺がこんな消しゴム持ってたらキモチワリーだろ。
呆れまくった花井に特に微動だにしない田島だったが、シュン、と後ろを向く。
ガラスの向こうにいたのは、オリーブ色の車にもたれて巣山としゃべっているだった。
「あー!だ!」
「ちょ、こら田島!」
「おっつかれー」
手を挙げたに飛びついた田島は、やっぱり犬のようにヨシヨシと頭を撫でられている。
「さん、どうしたんスか?」
水谷もソフトクリーム片手に従順さを見せる。お前らちょっと調教され過ぎじゃね。
「んー?いやべっつに?いるかな〜と思って」
そのなんとも思わせぶりな発言に、らーぜは全員ハテナマークだったがさして気にとめもしなかった。
やいのやいのがやがや言い始めた部員たちを見ながら、は満足げに笑ってタバコをふかす。
ようやく花井がその小さな体に近づけたとき、見計らったように彼女は車の灰皿で火を消した。
「おつかれ」
「あ・・・ども」
手の中には2色のマカロン。
渡すなら今しかない。
「さん」
「ん?」
「あのー・・・これ、食いませんか?」
スッと出してどころか花井すらも驚いた。
2つのマカロンは鞄の中で揉まれ、床に落とされ、ついでもって花井の手の中で握り締められていたのだ。
「・・・なにこれ?」
ハッと笑ったに、花井は絶望とも言える表情を浮かべる。
緑とピンクは交互に入り混じり、あのかわいらしかったプリティーマカロンとはもう面影すらない。
「これっ・・・」
ほんと、なんなんでしょーかコレは。
んなモン食ってるとこなんかかわいいわけねーよ!うわーさんってなんでも食べちゃうんですねーアハハ状態だよ!
計画失敗。ずーんと影を背負い始めた花井に気づいているのかいないのか
はくちゃくちゃになったビニールを奪い取り、ぱりぱりと封を開け始めた。
「ああ、マカロンだったのか」
「・・・スイマセン」
なんで謝ってんの、とカラッと笑って。
ボロボロ崩れ落ちるマカロンを手のひらで受け止める。
「なんか桜みたいね」
ピンクとミドリで。
「え?」
花井の返事を待つことなく、は手のひらの上のぐちゃぐちゃマカロンをがばっと口の中に入れた。
唇の横には、受け入れられなかったピンクと緑のカスが留まっている。
「うん、うまい!あまい!」
「・・・・ははっ」
「あー?なんで笑ってんの」
眉をゆがめながらもらい笑いをしたは
残りの半分を無理やり引き寄せた花井の手のひらにぶちまけた。
「はんぶんこ」
「・・・はい」
あーあ、まぁたやられちゃったよ俺、さんに。
便所あがりの阿部の手に渡って、鞄でもみくちゃにされて、コンビニの床に転がって、自分の手でトドメ刺されて
それでもさんの手に渡ったら
「・・・うまいっす」
「うまいでしょ〜」
うまくなっちゃうんだもんな。もーやってらんねーよ。
誰もみてないスキを見て(ほんとは阿部に見られてたけど)
そっと、口モトのピンクとミドリを親指でとってあげた。
「ありがと」
「いーえ・・・」
送信者:チヨちゃん
題名:花井君が
本文:さん来ないって寂しがってましたよ。
そんなメールがきたことは花井君には内緒にして
こんどチヨちゃんに、かわいーマカロンでも買ってってあげよう。
「花井君、マカロンってどうゆうお菓子だか知ってる?」
「はい?」
「昔のなんとかって人が、お嫁さんに行くときにもってったんだよ」
さん。
自分で言っといて
カオ、ピンクにしないでくださいよ。惚れちゃうじゃないっすか。
「よかったな山戸さん食ってくれて」
ムフフと笑う阿部をぶっとばそーかどうか本気で悩んだりしてみたって
もういいよ、俺いま、しやわせだから。
「んで?うまかった?」
「あー・・・・」
結論はといえば
さんにマカロンは、予想以上、反則的、可愛かった。以上。
サンスモ番外編・「Dolce」というステキ企画に参加させて頂きました!
前々から、ああすてきな企画〜ワンダフルーと思っていたので今回参加させてもらって
ほんっと嬉しかったです。
マカロン食ったことないけどね。
しかし、お題を汚すような話になって申し訳ない・・・土下座します。
他の参加者さまの作品もたいそう胸キュンですよ!
(ご迷惑のかからないように夢見させていただきましょうね
管理人・雛形りぃち様