『シックスセンスの洗礼―花井サイド』
「あれ?花井じゃね?」
家まであと5分の公園の前。その声に振り向けば、中学の同級生。
「おあ、八代?」
特にこれといってずっと一緒にいたとか仲良かったとかそうゆうわけでもなかったが
久しぶりに見た懐かしい顔に、少し嬉しくなったりして。
「ちょっと話してかね?」
そんな誘いに二つ返事でOKして、狭い公園のベンチに男2人でケツをついた。
「花井はまだ野球やってんだよな」
「おー。八代はまだバスケやってんの」
「いちおーね。ウチの高校よえーんだけどさ」
滓かに聞こえる布ズレの音を辿って、花井は少し笑った。
そうそう、こいつ貧乏ゆすりがクセなんだよな。
「んでもマネージャーかわいーからさぁっ」
「ははは」
「お前んとこもマネージャーいんの?」
「いるよ」
「なに、カワイー?」
素直かワザとか、やらしー顔でヒジをツンツンしてくる旧友。
街灯と月の明かりだけっつーのが、少年達のテンションを無駄に上げていく。
「まー・・・どっちかっつーとかわいいんじゃね?」
篠岡の顔を思い出す。
確かに彼女は同い年の女子たちとくらべて化粧っけもないし色気もないが
素でかわいい女の子だとは思う。
「まぁじかよ!んで?どうなのそこらへんはー」
「なんだよそこらへんって」
「えー?ぶっちゃけ、どうなん?」
「いや・・・なんもねーし」
それを聞いた途端、八代はダァッと意味不明な言葉を発して背もたれに身を投げ出した。
「俺さー、ちょっと好きなんだよねー」
「バスケ部のマネジ?」
「そー」
はあ、と若々しい溜息をつく。素直な八代に花井はふっと笑ってしまう。
「なんかさー、もー俺の好みバッチリなワケ」
「お前の好みってどんなん?」
「えー?もー、可愛くて細くってさ、サバサバしててー他の子とぜんっぜんちげーの。オーラっつの?」
そんなん誰でも好きになんじゃね。そんなふうに思う一方で、こいつ西浦の野球部じゃなくてほんっと良かったって思う。
ライバル視してるワケじゃないけど(俺のん気過ぎ?)、これ以上さんのファンが増えるのは疲れるよ。ほんっと。
適当な相槌を打った花井がフマンだったのか、八代は顔を上げて詰め寄る。
「花井は?どんなんが好きなの」
「お、俺?俺は・・・俺はいーよ」
「んで照れてんだよキモチワリーな!言えよ!」
「あー?あーっと」
一瞬空を見上げてから
花井はわざとしょうがないな、みたいな口調で言った。
「いー顔してて・・・」
「いー顔?」
「そんで大人で、どっちかっつーと細くて、んで破天荒でワガママで、おもしれーコ」
チラリと横を見ると、八代はあからさまにいぶかしげな表情をしていた。
「それって・・・マリリンと全然ちがくね?」
「は?」
急速にめまぐるしく花井の記憶が辿られる。マリリン、本名まりえ。
小柄でおとなしく、子供っぽくてひかえめで・・・
唯一、花井が中学の時に淡い恋心を抱いていた女の子だ。
「まあ・・・違うな」
どこが好きなんだ?修学旅行でそう聞かれて渋々花井が答えたのは
『目立たなくておとなしーから』
だった。
「間逆じゃん!」
「あー・・・まぁそうかもな」
確かにあの人は新人種だよ。俺の理想ネジ曲げちゃうくらい。
あーあ、と溜息をついた旧友は、ベンチから腰を上げる。
「かえるー?」
「あー、おう、帰るか」
帰り道が間逆な2人、せまい路地の前で別れを告げる。
じゃあな、と簡単に手を振ってチャリをこぎ始めると、向こうの道からでかい声が聞こえて。
「はないー!!」
「っ・・・んだよ!」
「俺マネジおとしてみせっからー!したらメールすんな!」
花井は場所もわきまえず、遠ざかっていく声にははっと笑った。
「おー、がんばれよ!」
「お前も大事にしろよー!!!」
「え?」
やっぱり最後の会話は不可解で
懐かしさをひきずる花井がなんとなく広げた中学の卒業文集
一人ひとりがその人の印象を綴っているページ。
八代孝明
「バカっぽいけどカンだけは良い」
「八代のカンの良さは異常」
「こいつには隠し事できない」
花井は気づいた瞬間、顔を真っ赤にさせた。
Go-Your side.