『シックスセンスの洗礼―あなたサイド』
むっちむちの手が、それ全部つかって人差し指を握ってくる。
うわー、なんか感動。
なんとなく本屋をプラプラしていると、声をかけられた。
高校時代のクラスメイト、宮崎風香。
「・・・あれ??」
「ふーかじゃん!」
「ひっさしぶりー!」
近づくと彼女はベビーカーを押していて、中には可愛らしい赤ちゃんがコンニチワ。
「わー!!赤子だ!」
「もーママだよ〜」
照れくさそうにそう笑う風香になんだかムズムズしてしまって
喫茶店、もちろん禁煙の。誘うと快くOKしてくれた。
だっこされて、プラスチックのストローつきのコップからオレンジジュースをチューチュー飲んでいる。
「かーわいい」
「まーね」
一緒に学校サボって、一緒に笑って、一緒に恋に悩んだりした友達が
もうお母さんになっている。見紛うことなくハハオヤの顔をしている彼女に
嬉しいような、ちょっとだけ切ないような、そんな気持ち。さっきのムズムズの原因はソレだったんだ。
「あ、あんたの記事たまーに見るよ」
「まじで?えっへへー」
そう言いながらアイスコーヒーをぐるぐるかき混ぜる仕草に
旧友は、笑う。一緒に学校サボって、一緒に笑って、一緒に恋に悩んだ。
「あんたはかわんないね」
「大分大人になったんスよー・・・これでも」
アイスコーヒーのせいでまたタバコが吸いたくなった指2本を懸命に抑えている事はヒミツ。
少しの会話の間に、赤ん坊は腕の中でウトウトしはじめた。
「おねむか」
「ちょっと疲れちゃったかなー?」
よしよし、と背中をポンポン叩く動作もこなれたもので。
「は?」
「へ?」
顔を上げると、まるで学生時代そのままの顔でニヤっと笑う宮崎がいて。
「結婚とか。どうなの?」
一瞬キョトンとする顔、ぜんっぜん変わってないなーと思う。
「いやーないない・・・」
顔をそらされた宮崎は、プッと笑う。
「あはは。高校時代はあんっだけ結婚したいっつってたのに!」
「いやー・・・大人になると妙に現実っぽくてさ」
逆になんかダメ。怖い。素直にそう告げた。
「彼氏はー?」
「まー・・・いますけど」
「そうゆう話、しないの?」
しないのって・・・まだ高校2年生ですよーなんて、言えるわけもない。
「しないねえ・・・」
「そうなんだ。まだ遊びたいってかんじ?」
遊びたいって感じっつーか・・・遊ばせてあげたいというか。
だってそうじゃん。今結婚なんて言い出したら、花井君の人生もう決定しちゃうんだよ。
そんな権利ないっしょ・・・いくらなんでも。
「まー・・・まだ付き合ってそんな経ってないしね」
そう誤魔化して飲んだアイスコーヒーは、ガムシロ2つでもちょっと苦い。
「あ、そういえばこないだ百枝見かけたよ!」
「まりあも変わんないよね」
「まーね。でもなんか楽しそうだった」
バイト中だったみたいだけど。そんな笑顔の理由も、今の自分はよく分かる。
「頑張ってるよね。まさか監督やるとは・・・・そんな意外でもないか」
「確かに」
ケラケラ笑うと、宮崎もクスクス笑う。
それからはもう、二十代を半ばに控えた女性らしく。
世間話に花を咲かせ、あっという間の2時間だった。
去り際、いつのまにかどっちからかわからなくなってしまていた携帯番号とアドレスを交換して
赤ちゃんの寝顔を一枚撮らせてもらって。
じゃあまたね、うんまたね。そんな簡単な言葉を交わして、べつべつの道に進む。
車に乗ってキーを差し込んだ瞬間、携帯が鳴って
登録したての宮崎の名前のあとに、メールの本文が並んでいた。
件名:オバハンだよー
本文:あと2年・・・いや6年?待ってたら★
「は?」
家に帰って、引き出しの奥深くから高校の卒業アルバムを引っ張り出す。
懐かしい顔ぶれにニヤニヤしながら、高校生の宮崎の写真を見てハッとなった。
彼氏にフられた時、悔しいからフッたと言ったとき。
誰もいなくなった教室で、彼女は頭を撫でてくれて―・・・言ったんだ。
『ふられたって言ったってべつにかっこわるくないのに、もー』
『・・・なんでわかんの』
『カン』
2年後高校卒業。
行ってたら、6年後大学卒業。
件名:なんで
本文:バレたの?
件名:Re;なんで
本文:カン★
見事母親となった旧友には、未だに頭が上がりそうにない。
Go-Hanai side.