『昼休みのラブコール―アザーサイド』
「でも俺はあのパスは正解だったと思うけどなあ」
「おめーどこ見てんだよ」
「しどい、阿部」
ダラダラしゃべりながら、水谷と阿部は昨日見た試合について話し合っていた。
ふと横を見ると、花井が携帯を手にしている。
一瞬2人の会話が止まる。最近の花井は、携帯を手にするたび、どこが妙だって知ってるから。
多分今話しかけてもムダだろうな、と思ったら
なにやらムニムニボタンを押し始めた。メールかな?誰に?いや多分・・・さんだな。
「ねぇ阿部」
「んだよ」
「あれってさー」
「・・・言うな」
ちょっと顔赤くなってる。うわーキモイ、恥ずかしい。
多分あの顔見たら世界中の人が分かっちゃうだろう。好きな人にメールしてんだって。
ぽっかりあいてしまった会話のごまかしに、紙パックのミックスジュースを飲むとバイブの音がして
今度は花井は、口元をモゴモゴしはじめた。きっも。
「・・・返事きたのかな」
「・・・じゃね」
なんで観察してんだ、俺ら。そんな共通の感覚を抱きながら、気になって仕方ない。
だって面白いんだもん!きもいけどね!
空を見上げて頭をボリボリ掻く。ふーっと息をしてまたメールしはじめる。
右往左往いったりきたり上から下へ天から地へ。
なんか恋って・・・。
次の瞬間、携帯がなったと思ったら花井は顔を真っ赤にして
なんにも言わないで、教室から出て行ってしまった。
「え?なに?トイレ?」
「・・・携帯持ってったぞ、アイツ・・・」
「ふいー」
大量の小便を出し切った浜田が便所の敷居から出るとすれ違うように
真っ赤な顔の花井が入っていく。
「あれ、はな・・・」
無視された。なに?携帯握り締めて・・・
「あれ浜田ぁ」
「おー田島、と三橋」
「なに?」
「なんか花井がまっかっかでトイレ入ってったぞ」
「?」
「?」
泉は?と聞くと、寝ちゃった、と言われて
簡単な会話のあと、足を進める。なんだったんだろ、花井のやつ。変なの。
「でさあー」
「う、ん!」
田島はいっつもチンコ覗いてくる。べつに気にしないけど。
ふと耳をすますと、花井の小さな小さな声がぼしょぼしょと一番奥の個室から聞こえてきた。
「・・ウンコでもしてんのか?」
ウンコしながら喋るか?普通。
次の瞬間、カシャン!と音がして振り向いた。
そして一枚板の向こうから聞こえてくる、慌てた声。
「あ、ああ!!」
「?なんだ?」
「??」
「な・・・なんでもないっす!!」
手を洗いながら、なにやらよく分からない会話。自分に言ったんじゃないってことだけかろうじて分かる。
覗いてやろうか、と田島が足を踏み出した瞬間
阿部と水谷が入ってきた。
「おーう」
「おー・・・って、何アレ?」
「なにが?」
奥を指差すと、聞きなれた声が聞こえてくる。
「花井?」
「なにやってんの?」
「・・・あー」
電話じゃん?あー、だからこんな個室にこもって・・・まる聞こえだけど。意味ねーじゃん。
「電話?だれとぉ!」
「誰って・・・」
ピンときた田島を必死に止めた。阿部と水谷は、優しい。
花井ばっかと、ずりいずりいを連発する田島を引き連れてトイレを出て
7組の2人は、会話を交わさないまま1階下のトイレを目指す。
あんなどうしようもない空気じゃ、出るものも出ねーよ。
「ねー阿部」
廊下を歩きながら話しかけた水谷の茶色い前髪が、ふわっと揺れる。
「ん」
「・・・いい天気だね、今日」
「・・・あー、そーだな」
予鈴が鳴って2分後。
幸せそうな顔をして携帯片手に帰ってきたキャプテンを、少し羨ましく思う。
Go-your side.
Go-hanai side.