もしかして、の予感は的中で
まだ三星の選手も到着してないうちから空は泣き出しそう。
通りすがりのじいさんが「こりゃ一雨来るなぁ」と呟いて
「せっかく昨日草むしりしたのにねぇ」と言った九条の残念そうな顔を見た。
天気予報は夕方から雨。どうやら、予報は外れそう。










Thank-you Smoking.-----51



























三橋の親戚だと紹介された叶は、相模が三毛猫なら完全に黒猫で
きれいな切れ目で頭を下げると、相変わらずは「そんなんいらないのに」と笑って同じように挨拶をした。
「え、どこらへん住んでたんスか?」
「うわ、その中学知ってんで!」
「まぁじっすか?」
後ろを見れば織田と瀬良が関西トークを繰り広げており私語を注意しようにも、空を見上げた花井はため息をつく。
「降りそうだねぇ」
ふと隣を見れば、これまた残念そうなの顔。
「まあ天気ばっかりはねぇ…」
栄口も下唇を上に上げる。
その瞬間、遠くの空が一瞬光った。

「うわ!雷じゃね?」
どよめき始めるメンバー、百絵と三星の監督は試合をやるかやらないか真剣に話し合っている。
つまらなそうな田島がいじいじとスパイクを鳴らす。
リズムを刻むドラムが叩かれるように、ドカン、と音がして
「うお!」
雷はどうやら、何キロか先の山に落ちたようだ。
「落ちた!」
「いま空気揺れたよ!?」
「雲黒いな〜」
そのとき、が花井のユニフォームの裾を誰にも分からないようにキュッと握る。ドキッとして見ると、は小さな肩を震わせていた。
さん?」
「あたし…帰っていい?」
「え?」
珍しい行動に、ハッと気付いた泉があらら〜と思ったがの様子を見る限り、そんな悠長な事を言ってられる雰囲気ではない事を察する。
「どうしたんスか?」
花井が顔の赤いままを覗き込むが、本人は下を向いたまままるで何かに耐えるように動かない。
「花井…何?」
心配げな阿部の質問に、花井はフルフルと首を振って見せる事しか出来ない。
ー?」
様子のおかしいのに気づいた田島が肩に手をおいた瞬間またも空を裂くような雷の音が聞こえた。
「うわああっ」
どう考えてもその反応は驚きでは収まりきらない、恐怖とすらとれる声。え?まさか・・・いやないって。
だってさんは最強だもん。カミナリごときが怖いとか、そんなんありえるわけない。
ウンウンと納得するメンバーを差し置いて、は小さな体をガクガク揺らす。さすがに心配になってきた。
さん・・・もしかして」
「ひぐっ・・・」
ギュウ、とひっぱられるユニフォームはもう伸びちゃうくらいの勢いで。愛しいと感じつつ、まったくもって意味が分からない。
「みんな聞いてー」
パン、と百枝が話し合いを終えて手を叩いた瞬間。
ゴロゴロゴロゴロ!!!ピシャアアア!!
爆音が鳴り響き・・・・は抱きついた。

花井ではなく、百枝に。
「・・・え?」
そっち?







「あらら・・・・」
「うっ・・・ふぅううう」
百枝の大きな胸に顔を埋め、必死に背中に手をまわすをまるで子供でもあやすように優しくなだめる百枝。
「監督・・・どゆことですか?」
恐る恐る矢倉が声を出す。よくは分からないが、あの自分を手玉に取るように笑っていたとはまったく別人で
増してその弱みくさい何かを見つけたからといってニヤニヤと笑う空気でもない。
百枝はんーっと頭をポリポリ掻いて、ちらりと胸元ののつむじを見下ろして。
「この子カミナリダメなのよ〜」
ええええええええ!!!???あのさんが????
西浦全員が驚愕した瞬間、大きな音を立てて雨が降り出した。
午前10時ジャスト。まったくもって、天気予報のアテにならない事。


薄い屋根を攻め立てるように振る雨に、窓を向いた矢倉が重い溜息を漏らす。
さぁん」
「花井、大丈夫なん?」
「いや・・・わかんね」
今日の練習試合はオジャンで、三星の選手は遠路はるばるだったから余計に申し訳ない。
かと言って何もできるわけもないまま選手を見送ったらーぜの面々は
オバケ屋敷に帰ってきた途端押入れに超特急したにア然とした。
いくら呼びかけてもウンともスンとも言わないに、メンバーはお手上げ状態。
広い部屋でダラダラと過ごしながら、まるで決まったように押入れの前でローテーションを組みながらを気にかけていた。
「あ、監督・・・」
溜息をつきながら部屋に入ってきた百枝に水谷が顔を上げる。
「もーお手上げ状態だね、まさに」
そう苦笑してふと押入れを見る。花井と栄口と三橋が座っていた。そのサマが妙におかしくて、ふっと笑う。
「監督・・・さん大丈夫っすかね」
一番近くにいた沖も心配そう。百枝はフンと大きく鼻息をもらして。
「いつもの事だからねえ」
「そうなんスか?」
ー、バラしちゃうよー」
見えもしないのに悪戯っぽく笑った百枝がまるで見えているように。押入れの中からガタッと音が聞こえて。
皆が皆一様に眉をゆがめているこの原因の可愛いの過去を、百枝はそっと語り始めた。

「高校時代もねえ、こうだったのよ」
原因は知らないが、とにかく知り合ったときからはこうだったらしい。
雨が降ってもあっけらかんと笑って、いつもどおりにしゃべっていたかと思えば
雷の音が聞こえた瞬間、まるで別人のように震え始め百枝もしくは別の誰かにしがみつき
いよいよ落雷の音が響いた瞬間、狭いどこかにとじこもる。
掃除用具入れに入ろうとした時は本気で止めた、と笑った。
「だからね、あの子の学校での隠れ場所はもっぱら―」
「ま、まりあ!!!」
「うわ!出てきた!」
「もーちょっと、言いすぎ!!!なし!いまのなし!!」
出てきたかと思えばぎゃあぎゃあと百枝にまとわりつき、マジでお前どこまでバラす気だと言い合う。
その反面・・・なっさけない顔がようやく見えたことに、花井はほっとした。
雨足が弱まっているわけではなかったが、カミナリの音ももうどこか遠くへ消えてしまっていて。
きっと夕方には雨もやむと、思う。



インディアンポーカーを教えてあげたら見事に全員ハマってくれて
先ほどから泉の執拗なS攻撃の声ばかりが聞こえてくる。
「お前絶対後悔するぞ・・・そんなヘボい数字で・・・」
「っ・・・じゃあ降りる」
「ハッ」
「ってオイ!!俺キングじゃねーかよ!!てめええええ」
楽しそうな声を聞きながら、鼻をズッとすすったは先ほどから窓際でぼーっと空を見ていた。
もう小雨になっていて、遠くの山から光が見える。多分、あと1、2時間もすれば雨もやむだろう。
ふう、と息をつくと後に気配がして。
振り向けば、花井がいた。
「もー平気っすか?」
「なんのことだか」
さっぱりワカリマセンが?真顔でそう言うに、苦笑しながら花井は溜息をつく。
あんなびびってたクセに。いやあなんつーか、かわいかったなあ。
「なんでダメなんすか、カミナリ」
さっきのの言動はおいといて。大人ぶった花井は或る程度の距離を保ったままそっと話す。
下唇を出し、どうも納得いかないふうにジロジロこっちを見たあと
はためいきをはいて、意を決したように口を開いた。
「絶対言わない」
「は?なんでっすか?」
「っつか、残念だったね試合できなくて」
話をすりかえられた。ここは強制的にでもの弱みにつけこんでみたい花井だったが
目の前に出された銀色のカギに気づいて、眉をゆがめる。
「なんすかこれ」
「合鍵」

ああなんということでしょう。
甘い響き、心地よい旋律。魔法の言葉。それは「合鍵」。

しかし
手を出しかけた瞬間、ひゅっとは自分のポケットにおさめてしまった。
「今日試合で勝ったらあげよーと思ってたんですけどねえ」
ニヤニヤ笑う顔はいつものそのもの。でも今それをよかったとかどうこうより
目の前のご馳走をひっこめられた事によるショックのほうが何倍も強い。
「なっ、な??」
「残念だけど次回に持ち越し」
「っ・・・・」
口をパクパク動かす花井にケラッケラ笑うと、何しゃべってんのー??、と田島が寄ってきた。
「ユー、もうトランプやんないの?」
「モモカンがさあ、鍋やるからも手伝えってさ!」
「あ、やるんだ!?」

わーい、とドタバタ走っていった2人を見て
花井は合鍵を握り損ねた手元を見る。

次回ってことは
甲子園の予選・・・ってことになるのかな。



































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