え?とキョトンとした顔をしたにキョトンとした。
練習終わりに百枝に、予定変更で明日から篠岡が復帰する事を告げると、どこかで安心したが
そのどこかで、酷くとの別れを寂しく思った部員たちは、最後の掛け声を合図に着替えもせず一斉にのモトへ。
9人の球児たちに囲まれたは、こんな可愛いのが沢山いるなんてやっぱ百枝羨ましすぎる、と苦笑した。
まるで泣き付いてくるみたいにの腰に手を回した田島。「に会えなくなるなんてヤだ!」と駄々をこねた。
「なんで?普通に遊びに来るし」一瞬の間だけを置いて、いっきに顔が明るくなる。
「マジで!やったあああ!!」
「いつ?明日来る?」
「やー・・・仕事溜まってんスよあたし」
そう苦笑して、まぁ近いうち、とだけ言っておいた。


大人の「近いうち」って、どのくらいの感覚の事をいうんだろう。
僕や僕達の近いうちっていうのは、いくら長くても一週間くらいなんだけど。













Thank-you Smoking.-----8



























まだ何も知らなかった頃。身長が1メートルと少ししか無かった頃。
デパートでもらった真っ青の風船が嬉しくて、手を離すまいと手首にぐるぐるにヒモを巻きつけて家まで帰った。
次の日、天井を見上げると風船は無くて、自分の手の届く位置で、うだうだ揺れているそれを見て酷くガッカリした。
どうしてしぼむんだろう。必死で穴を探した。母親に聞くと、目に見えない小さな小さな穴があいてるからしょうがないのよと頭を撫でられて
見ていられない風船に、心の中で別れを告げた。
あの夕暮れの中、あの日。きっと世界中で数え切れないくらいの人たちが、同じ瞬間好きな人に思いを告げていただろう。
そしてその中で、自分の思い通りにいかなかった人も何百・何万といたことだろう。
でも、その中でも、きっと誰よりも切ないフラれ方をした花井に2月の雨は、あのときと同じように冷たくてなんだか泣ける。
教室の蒸気と外の気温のおかげで曇った窓ガラスに手を当てて、小さな自分だけの視野を作った花井が外を見ても
どんよりとした雲と何本もの線が、高校1年生の世界を無常に灰色に染め上げるばかりだった。

風船みたいに、自分の心臓にも穴が開いていたのかも知れない。
空気を注いでぱんぱんに膨れ上がって、空も飛べそうだと正直ばかばかしいくらい思ったあの日。
しぼみかけた自分の心臓に、は笑顔で針を入れた。痛かった。泣いてしまうくらい、痛かった。
あれから3週間、花井梓は、の事を見ていない。
チームメイト達からは相変わらずの名前を聞くような日々だったが、それも序所に減りつつある。
そして、自分の気持ちも。この3週間で、すっかり落ち着いてしまったように感じてしまって
『それ多分ね、今だけ』
そう笑ったの言葉を、あたりーって、思う。


あのとききっと自分は、年上のお姉さんに舞い上がってしまっただけなんだ、きっと。
幼稚園児が先生に恋をするみたいにきっと。はしかみたいな恋に、ムネが踊っていただけ。

空気はすぐに抜けてしまう。
このまままた穏やかに、いつもの日常を受け入れればそれでいい。
いつか、他の人みたいに誰かを好きになったら、それはそれで結構な事だ。
初恋はかなわない。うん、かなわなかったよ。







3日間の雨ですっかり体を持て余してしまった。田島なんか、昨日は一日オナニー回数新記録を樹立したらしい。
それにそこまで共感できなくとも、気持ちというかニュアンスは分かる。日々あんなにがむしゃらに練習していたんだから仕方ない。
珍しく西広が昼休み教室を訪ねてきたと思ったら、手には見慣れないフリーペーパーが握られていた。
「ねぇねぇ、コレ知ってた?」
昨日たまたま訪ねてきた隣町の親戚が置いてったんだけどさ。そう言って、ドッグイヤーのページをぱらっと開く。
目に飛び込んできたのは、ページの半分を覆う白黒の、とある見慣れた風景だった。
「あれ?これって」
「これって、俺らのグラウンドだよね?」
「え?何??」
身を乗り出してきた泉が西広から雑誌を渡されると、大きな目でギョロギョロと下部分の長い文を読み始める。
「わ、まじで。西広いつ知った?」
「今さっき。昨日ノートと一緒に置いてたら一緒に持ってきちゃってて、さっき暇つぶしに読んでたらさ」
「なになに??」
つかめない会話に田島が頭をひねると、泉が隣にいた花井に雑誌を渡す。
さん、個展やってんだって」
完結にそう言うと、そこにいた全員の目がキラッキラし始めた。
「まあじ???」
水谷が思わず立ち上がる。今立ち上がっても何もならないのに、気持ちがわかってしまうので誰も突っ込まない。
「うっわーみしてみして!!」
文を読み始めたばかりの花井から雑誌を奪うと、田島は嬉しそうにぎゅっと握り締めた。
「すげー!!マジすげ!!」
「え?どここれ?」
「隣町だよ・・・ね?」
端に小さな地図がある。阿部が冷静にそれを凝視する。
「こっから電車で10分くらいじゃん?」
「え、いこーぜ!!ゲンミツに!!!」
すっかり乗り気な田島に、阿部は苦笑したままひとつだけ溜息をついた。
「いつ行くんだよ・・・ココ19時クローズって書いてあるぜ」
7時なんて、いつも練習真っ盛りの時間だ。
「しかも明日までか」
朝の天気予報で聞いたのは、明日の日付が変わるまでには雨はやむ。
半ば諦めて肩を落としたメンバーに、水谷が座らないままばしっと人差し指を出す。それどっかで見た事ある。あ、逆転裁判。
「んじゃ今日しかないっしょ!」
明日は確実に行けない。だったら雨が降っていて、きっと筋トレは6時には終わる今日はなんて打ってつけなんだろう。
昨日やってしまったから今日はミーティングもない。
「いけんじゃあああん!!」
「行こうぜ、今日!!みんなで!」
「え、迷惑じゃないかな?」
「大丈夫っしょ!これしかも、もしかしたら俺らも撮られてっかもよ!」
「そっか!!すっげー!!」
「今日そっこーで終わらせようぜ!!」
「頼むぞキャプテン!」
花井はハッと顔を上げて、普段と何も変わらない顔で笑った。
「おう」
ほらね、普通にできる。全然フツー。至って変なところなんか何もない。
だって平気だもん。





全速で腹筋をし始めた田島の頭を叩いた。
「なにすんだよお」
「田島・・・お前だけ早く終わってもしょうがないんだからな」
「ちぇーっ」
とは言ったものの。百枝や志賀や篠岡もが少し違和感を感じるくらい、皆が何かを急いでいた。
いつもなら雨の日の練習は気を抜くとまではいかないにしろどこかで座れる場所を探したり笑ったり、それは否めないので注意もしなかったのだが
とにかく、今日のメンバーの集中力はおかしい。
はい次、ハイ次、はい移動は駆け足!・・・どうしたんですか?と百枝が志賀に目で訴えてもまったく首をひねるばかり。
チラっと花井はまわりの様子を伺う。あれから授業中、あそこにいなかった栄口や巣山にメールをした。
行くに決まってる、と返信をもらったあと、花井は携帯のナビで個展の会場となっているアートスペースを検索したがヒットせず
阿部に言うと、あんま大きくないとこや新しいとこだと出ない事がある、といわれた。
でもまあ地図もあるし、なんとかなるだろう。そうやって右往左往する花井の背中を見ながら、阿部は考えていた。
「・・・マジで好きなのかよ」
「何?なんか言った?」
水谷が顔を上げたので、別に、と返すと「冷たい」とショボンとされた。
キャプテンに好きな人か。ちょっと面白いとか思ってしまう自分は非情だろうか。ププッ。
そしてその日、筋トレは5時30分には終了してしまった。
なんだかわけは分からないが、メニューはしっかりこなしたので百枝も文句も異論もないので練習終了を告げる。
それと同時、全速力で着替えに向かった彼らの後姿を見守りながら、3名は首をかしげつつ少し苦笑したのだった。





ウソだろー。誰かがつぶやいた言葉が、全員にリンクする。すぐ近くでせわしなく電話をかける知らない大人を見て
電光掲示板と大声を張り上げる駅員をまた凝視する。
どれだけ酷いと言われても構わない。口には出さないから許して欲しい。本音だから。
自殺すんな。こんな田舎の路線で。しかもこの日に、この時間に。死ぬなら1人で死ね。迷惑かけんな。よりによって今日に!!!!!
5駅離れた場所で、たった今人身事故が発生したらしい。いつもなるべくしない傘差し運転とは思えない程の速度で向かって
6時にはあの駅につくからまあヨユーだろと踏んでいた球児たちは、肩を落とすどことか肩を失いそうだった。
若干数名、もうムリだな、と思った。若干数名、明日の雨を願った。そして若干一名は
「んじゃチャリで行くしかねー!!」
そういうが早いかきびすを返したので、まるで背中を押されたように、全員今止めたばかりの駐輪場に戻った。
鍵を探す時間ももどかしい。キャプテンはそれでも「横に広がるんなよ!」となんとも主将らしい発言を残したのだが。
会いたいんです。会いたいんです。かみさま、どうか。
に、会わせてください。行ったってそこにいてくれる保障はどこにもない。それこそ非情な考えだと、阿部は自分を少しだけ責める。
雨が冷たい。肩も鞄も、もうとっくにビショ濡れだった。





ヘトヘトになった足がガクガク揺れる。汗に反して体が冷たい。手の感覚なんかとっくにない。
途中で傘を差すのをやめた田島を後目に、花井や他メンバーもびちょびちょになった体をとりあえずタオルで拭いた。
「近くだよね?」
※お越しの際は電車・徒歩でお願いいたします。 そう書いてあった。きっと駐車場も駐輪場もないのだろう。
巣山の提案で駅前のデパートで自転車を止めた。そこから走るようにもどかしい地図を辿って行き着いた、小さなアートスペース。
教室のドアの半分くらいのドアには、小さな文字で「Close」と書かれていた。
「今何時?」携帯を開く。
「6時58分」
「・・・閉めちゃったのかもね、遅いし・・・雨だし」
栄口の言葉に、また抜けるほど肩を落とす。無駄足だった、そう確信すると一気に疲れが出てしまって今にも雨に濡れた床に突っ伏してしまいそうだ。
帰るタイミングを最大に見失ったメンバーをよそに、いきなり田島は人差し指を立てて唇の前に持って行った。

「シ!!」
「・・・んだよ」
「鍵かかってない」






























































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