見た事もない服を着て帰ってきた息子に、母は驚いた。
何故か何も語らない梓に「ご飯おいてあるわよ」と言うと、食ってきた、と今まで聞いた事も無いような言葉を吐かれ焦る。
正直、食ってきた、とご飯を断られるほど成長期の息子が満足に食事が出来るくらいお小遣いをあげているつもりはない。
戸惑う母をヨソに2階に上がると、偶然鉢合わせたうるさいの2人に出くわす。
「なにその服かわいい!どこで買ったの?」
「オシャレじゃん!」
それにも返事をせず、花井は部屋に戻りベッドに寝転んだ。天井がいつもと違って見える。
天井どころか、何もかもがなんだか違うふうに見える。
男・花井梓。16歳にして、初めて、女性とデートできそうです!


















Thank-you Smoking.-----11

































































”新規  を登録しますか?”
はい、を押すとき、絶頂に達しそうだった。自分のメモリーに、が入った。
名刺に書いてあったのは電話番号とメールアドレス。ひとつひとつ確かめながらそれをしっかり打ち込むと
今度はふう、と息を吐いて新規メール作成画面を開く。
件名・花井です。
本文・今日はありがとうございました
これだけのメールに、実は20分を要した。だってしょうがない。初めて好きな人に送るメールだ。
最初、思いのままに作ったメールは最悪だった。

どうも、今日はありがとうございました!なんか妹が服気に入ってました。
写真良かったです。映像も、よかったです。
それで、次休みはいったら買い物つきあってくれますか?
連絡待ってます。

キモー!!心の中で絶叫して、実に大半を消し、あの簡素なメールに至ったのだった。これは正解と言える。ゲンミツに。
でも、送った。変な絵文字も使ってないし、きっとはこうゆうシンプルなのが一番・・・だと思いたい。
無意識に枕を胸に、バタバタと足を動かしてみてハッとなる。なにしてんの俺!キモチワルイ!!
浮かれてる。あんなに浮かれた事を悔やんで泣いたのに、もうそんなの全部撤回しちゃって浮かれてる。
それから10分の息の苦しい時間のあと鳴った携帯から光速で受信メールを開くと
送信者・
件名・おーっす
本文・こちらこそありがとうございました。風邪ひかない?

返事オッケーのメールが、嬉しい。花井は震える手を一旦擦って温めたあと、返信ボタンを押した。

件名・いや
本文・ぜんっぜん余裕です。さんは大丈夫っすか?

件名・なんで
本文・あたし濡れてないスィ(笑)もし風邪ひいた人いたら教えて。まりあにケツバットされるかも。

件名・(笑)
本文・モモカン、高校時代からやってたんスか?

件名・え!
本文・まりあそんな事やってんの?今の時代じゃヤバイでしょ〜虐待!

件名・いやいや
本文・あんくらいでどうこう言ってたら部活なんか完璧拷問っすよ(笑)

件名・あー
本文・すげーハードだよね。でもみんないい顔で部活してるよ。

件名・あー
本文・写真、よかったです。

件名・(笑)
本文・ありがとね今日。ほんと嬉しかった。

件名・無題
本文・映像も、良かったです。

件名・無題
本文・あたし今、お風呂なんだ★

はぐらかしに送ってきたメールに添付されていた写真は、肩まで真っ白な湯船に浸かって髪をアップにして
頬を桃色に染めて笑っているだった。風呂場特有のオレンジ色が、妙な雰囲気をかもしだす。
「こっ・・・」
口をパクパクしながらそれを凝視している花井を見抜いたように、返事の遅いソレには追い討ちをかけるようにまたメールを送った。
小さな携帯の画面に広がるのは、雨の線が引かれた灰色に傘をさしている女性。暗くて顔は分からないが、タバコを吸っている。
件名・それ
本文・待ちうけにしたらいいとおもーよー!
多分だと思った。惚れているからに見えるのかもしれないとは考えない。
今花井のフィルターを通したら、タバコ吸ってる女の人は全員に見えてしまうかもしれない。恋はすごい。恋はものすごくバカだ。

件名・無題
本文・ありがとうございます。


件名・はないくん
本文・おやすみ。

散々迷ったが、それには返事を返さなかった。
幸せな約30分のやりとりはスーっと消えてしまって、花井は何度も何度もやりとりを見直してさっきのがウソじゃないんだと言い聞かせる。
「あーーーーーーーーーーーー」
もー。なにこれ。
「泣きそー」
おやすみなさいさん。すげー、好きです。
とっくに頭の中で彼女だと認定された待ち受け画面に、そっと呟いた。
世界の皆様こんばんわ。テッペンとれるくらい浮かれた男子高校生花井梓16歳、3週間のブランクを終え無事戻ってまいりました。
どうやら、パワーアップしているもようです。








次の日、全員健康に朝練に参加してきたことにとりあえず胸を撫で下ろした花井梓は、いつものようにグラウンドを整備した。
久々の晴れの日照りのおかげで、多分放課後までにはグラウンドは乾くだろう。
昨日のの個展の話をまだ続けるメンバーたちをヨソに、花井はメールのやりとりをまた思い出す。
ニヤ、と無意識に笑った花井に気づいてしまった阿部がデジャヴを感じる。まったく最近の花井といえばの事で右往左往いったりきたりニヤニヤメソメソ。
「花井」
「・・・んだよ」
「・・・野球もちゃんとやろうな」
そんな釘刺しもリアルなほど痛感して、その日花井は気合を入れて練習にかかったのだった。


久々のバッティング練習は、最高に気持ちよかった。ピッチング練習も熱が入った。
いつもの夜遅くにオツカレサマでしたを張り上げ、着替えて外に出ると、これも少し久しぶりにきれいに月が見える。
明日も晴れそうだな、と携帯を見ると受信メールを知らせるライトがピカピカ光っていて、またも光速ワザを見せながらキャプテンはメールを開き
ガックリと肩を落とす。

送信者・母
件名・ごめん
本文・Tシャツ色落ちした\(^0^)/

洗ってもらっといて文句言うんじゃねーとか、そんなふうに思うには彼はまだ早すぎる。
花井は
ゥオイ!!と無意識に叫んだあと、コンビニにもよらず家に帰った。

彼を出迎えたのは、水玉模様をまとった、とてもじゃないが外では着られたモンじゃない姿となった、が選んでくれたTシャツ。
「あんたが下のほうに入れとくからいけないのよ!」
確かに、突っ込まれるのが嫌でタオルに隠すように脱いだそれは洗濯機の奥にねじこんだ。
「それに、あすかやはるかの服もほら!」
そう言われて見せられた灰色の制服のシャツを突きつけられて
ああ、自分の心の色のようだとなんともロマンティックな考えが浮かんだのは、とりあえず今は、誰にも言わない。




件名・さん
本文・はやく買い物行きたいっす。





そのメールは送信される事なく、未送信メールとして携帯にしばらく居座るのだった。











































































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