を捨てた男の想像なんて、嫌でも飽きるくらいしてしまっていた。
あんな魅力的なを捨てて、キスだのセックスだのって、一時的な欲望に身を任せるような男なんて
きっとウンコみたいな金髪に決まってる!(浜田さんごめんなさい)
そんでしゃべりかたもダラーっとしてて、田舎ヤンキーみたいな車に乗ってて
靴なんか絶対カカト潰してはいてて眉毛とか細くて
とにかく嫌なヤツに決まってる。
じゃあ、あのドアの向こうでと笑いあってる男って、誰ですかね?
Thank-you Smoking.-----16
「あはは」
の声で、目が覚めた。モゾ、と腕を動かすと、どこにあったんだか、バナナのきもちわるい顔のぬいぐるみがのかわりにのさばっていて
花井は上体を起こし、手探りで探し当てた携帯を開く。真っ暗闇にまぶしいソレが花井を細目にさせ、もらった待ち受け画面の上で
時刻は23時58分を刻んでいた。
「ははっ」
明らかにではないその笑い声に、ドクン、と心臓が早鐘を打つ。
音を立てないように花井はベッドから出て、本当に少しだけ、ドアを開く。
リビングでは、少し寝てスッキリしたのだろう、がソファで笑っている。コーヒーとタバコの匂いがする。
そして、向かいに、さっきの自分と同じように座っているのは、見た事もない男だった。
「ケンちゃんさあ」
ドキン、と心臓が痛くなる。ケンちゃん。ケンちゃん。をフッた、ケンちゃん???
今更?なに??なんなの??この状況で、未体験のこの空気を仮定するとなれば話は光より早い。
元彼がヨリを戻しに来た。
にしては、なんで和気藹々としゃべっているのだろう。1センチにも満たないスキマに食い入るように花井は顔をドアに擦り付ける。
ケンちゃんは、優しそうな、男の人だった。
とは違うタバコを吸っていて、メガネをかけていて、垢抜けていて、オシャレだった。
そして
「はー」
の事を、したの名前で、呼んでいた。
べつに呼びたければ自分だって呼べばいいのに。もったいぶったの1割、自然に出てこないの、9割。
「仕事うまくいってるみたいだね」
「んーまぁねえ」
「最近なにしてんの?」
「きのー帽子屋の記事書いたよ」
「あーいいねえー」
何がいいのか。到底花井には言えない洗練された(ような)言葉を吐くケンちゃんに、ズキズキ胸が痛い。
「そっちは?」
「まぁボチボチっすよ」
「そっすか」
ものすごくナチュラルに繰り広げられる会話。コーヒーとタバコの匂い。
そうか、タバコ吸ってる同士だと、窓あけなくていいんだな。そんな小さなマテリアルが、花井を下に押しやるみたいにキツい。
今出て行ったらどうなるのかな。は自分の事を何て紹介するかな。
手をかけたままのドアノブを、いまにもひねりそうな花井をまるで知ってるみたいに。
一瞬置いたケンちゃんとやらは、急に真面目なトーンになった。
「、元気そうでよかったよ」
「え?」
「いや・・・俺、けっこー・・・ひどい事言ったじゃん?」
「あー・・・あーまぁ」
珍しく歯切れの悪いに、花井がためらう。なんでだよ。笑ってよ。
俺がどうしようもない時とか、バカにしてる時みたいに。カラカラ笑って、全部流して・・・・
そんなこと考えても、どうしようもない。
「まさか、高校生連れ込んでるとは思わなかったけど」
そう言って笑ったケンちゃんに、ぐ、と拳を握る。全然そんなんじゃないのに、高校生ってだけで、バカにされてる気がして。
「予想外っすか」
さりげなく、やんわり話を逸らすのテクニックに見惚れる。否定も肯定もしないその態度。
それに、自分と付き合ってたときと違うものを感じたケンちゃんは、ぐ、とを見る。
「本気なの?」
「なにが」
「っつか、カワイソウだって。16歳から見たらお前なんか・・・最高なんだぞ?」
意外だった。もっと酷い事を、言うと思った。
は足を組みなおし、またタバコに火をつける。
「最高って」
そう笑う。どこかばかにしたようなソレは、花井ではなく、ケンちゃんに向けられたものだった。
「だからー・・・遊んでやんなよ」
「なにそれ」
「俺男だから分かるけどさ、フられたとき、すっげー哀れに・・・」
「ケンちゃんさあ」
言葉を切り裂いた言葉は、鳥肌が立つほど太くて確かなもので。
男2人、黙らせるには十分だった。
「あたしさあ、ケンちゃんの優しいトコ、好きだったよ」
「え?」
「職場の後輩に言い寄られて、下半身反応しちゃって、責任とってあたしと別れたんでしょ?」
「ちょ、お前それ誰に聞いた?」
「そんなん察しつく。冷静になればね」
キッパリ言い放つ。強く吐かれたタバコの煙が、鋭いほどから外の世界に斜線を引っ張る。
「ケンちゃんはいい男だよ。あたしが惚れたんだから」
呆然と聞き入っているのは、男も花井も同じだった。時間が止まったみたいだった。
そんな異空間に、いつだってはタバコで線を区切る。
そっちがわとこっちがわ。
いつも花井に大人と子供の線を引いていたが初めてその時
花井をこちら側に入れた。
冷静になればね。
冷静にしてくれたの、誰だと思う?
「それ差し引いても、あたしは花井君に惚れたんだよ」
「やっぱ起きてた〜」
いつもの間延びした声で、がベッドルーム兼仕事部屋の電気をつける。
布団の中の狸寝入り。
起きてミッチリ聞き耳立ててたかっこ悪すぎる自分をいつから見抜かれていたのか分からないが、花井は顔が熱すぎてとてもじゃないがさらせたものではない。
フン、と溜息をもらして、その瞬間ギ、とベッドが揺れる。
布団を頭までかぶった花井に、は布団の上からそっと手を置く。じんわり熱くなる。これ以上温度が増すのは、色々、やばい。
「・・・、さん」
「なんすかー?」
バタつかせる足のリズムに沿って、花井の長い体が簡単に揺れて、なんだか滑稽では少し笑った。
「・・・あれ、マジっすか」
「なにがあー?」
なにこのイヤガラセ!!もう死にたい!!!
そう思いながら、確かめずにはいられない。ここでボォンって爆発しちゃったとしても、もうしょうがない。
焦る。今もし俺がこの最強にチキンな性格にまかせてなぁなぁにしてしまったとしたら
もう一生の後悔だ。いい過ぎじゃあるもんか。
「お・・・れに、ほれっ・・・てるって」
ああ三橋か。俺は三橋か。もーーーなんでもいいよどんとこい!!ヘタレな梓が通りますよー!!!!道あけてー!!
「なに?きこえなーい??」
「な!!!」
飛び起きて、近くにある細い腕を掴んだ。
まるで、あのときと同じように。
一瞬驚いた顔のが見えて
次の瞬間、それがみえなくなるくらい、近づいてきて。
タバコとコーヒーの匂いが舌にからみついてきて
「マジみたいですよ」
その微笑に
その味に
下半身はこれでもかと反応した。
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