座右の銘・・・って程ではないにしろ。、思い立ったら即行動。そうゆう人間だと思ってきた。
でも、珍しく、散々迷った。
その散々が、例え3時間という大層短い時間であったとしても。普段迷っても5分。3時間は神がかり的に長い。
花井を通して、という考えも1時間くらいたって浮かんだが、なんだか話が余計にこじれそうでやめた。
今まで取材したケーキ屋の中で、ナンバーワンに美味しかった店のケーキを買う。
思えば家族構成も知らない。なので、5種類を2つづつ。
家族構成も知らないのに。挨拶って・・・バカはあたしは。
奥から慌てて出されたでかいケーキの箱は、の比率からしてだいぶデカイ。
Thank-you Smoking.-----21
一度だけ送ったことの或る道を思い出しながら、ようやく「花井」の表札を見つける。
車がとまっているし、心なしか誰かいるような気がする。時間は午後5時。きっと母親だろうな、と推測。
少し進むと都合よくワンコインパーキングがあったのでなれた手つきで駐車すると、意を決して車をおりた。
片手にはでかいケーキ屋の箱。もう片手には携帯とサイフと、念のための自分の記事の載っている雑誌しか入ってないバッグ。
「ひーーーーーーーー・・・緊張する」
少し震える手を必死で、インターホンに押し付けると
ピンポーン。その音がやけに大きくてまがまがしくて、少しだけ怖くなった。
そして数秒後、ドアから顔を覗かせたのは、髪の長い、女の人だった。あ、花井君に似てるな。そう思う。
気づけば段々力が抜けていくようで、まったく高校生のときやなんかのソレと違うなあと痛感したり。
きく江はといえば、見た事もない女の子がなにやらでかい箱を持って立っているのでいぶかしげな顔を見せた。
「あのー・・・何か?」
「あ、あのー」
やっべ。こうゆう時って何て言うんだろう。彼女なんですけど?いや、それはない。
「花井君の、お母さんですよね?」
訪ねてきてるんだからそりゃねーんじゃねーの、と思いつつ。もう口から出てしまった言葉は回収できない。
一瞬びっくりした顔を見せたきく江が
「あら・・・おにいちゃんのお友達?」
と言ってのけたのでそれにびっくりして箱を落としそうになった。お友達・・・ってトシじゃないんだけどなあ、ほんとは。
あはは、と笑ったを見て、またしてもきく江が驚く。驚きのキャッチボール、イン、花井家。
そして次にきく江が見たのは、見た事もないほど凛とした女性の笑顔だった。
「私、梓君とお付き合いさせてもらってます、です」
ペコリとさげられた小さな頭に、きく江はまぁまぁと声を上げていそいそと敷居をまたがせたのだった。
ふんわりと紅茶の匂いがただよう。
コーヒーとか緑茶とか、おおざっぱなものしか淹れられないにとってその光景は、進められた椅子に座っておとなしく・・・というわけにもいかず。
まるで何十年も知り合いか、はたまた娘のように
ピッタリと横に寄り添ってきく江の言動を観察していた。
「わ、何してるんですか?」
「ポット暖めたのよ」
「へー!すっげー本格的ですね!」
「あはは」
顔を向けた瞬間、かいだことのある匂いが紅茶のソレに混じってふんわりときく江の鼻を掠める。
お兄ちゃんのあの匂い。そうか、彼女のタバコの匂いだったのね。
「さん・・・でしたっけ?」
「や、呼び捨てで」
「あなた・・・幾つ?」
ぶっちゃけ、たしなめる気満々だった。息子と付き合うのどーのこーの以前に、未成年の喫煙はこの上なくよろしくない。
人様の娘さんにそこまで・・・とも思うが、最近は大人が弱いから子供が付け上がるんだと女性セブンかなんかで読んだ。
「23ですよ」
「え?」
「え?って?」
「・・・こ、高校生じゃないの??」
素っ頓狂な声をあげたきく江に、は大口をあけてケタケタと笑い始めた。
え?え?と顔を赤くし始めるママは、やっぱり息子に似ていて、余計に笑いが止まらない。
ひとしきり笑ったあと、はサイフから一枚の名刺を差し出した。透明の、シンプルな名刺。
「フリーライターやってます。それと、まりあの・・・監督の知り合いで。お手伝いさせてもらってたんです、こないだ」
で、そうゆうことになりました。
そう言って、よかったら、と渡された大きめの封筒をあけると、愛しいほど、情けない顔をした愛する我が息子が夕日に照らされて写真になっていた。
「すっごい!かぁわあいいいい!!」
「さんチョーうける!」
「ケーキおいしいい〜」
帰ってくるなり知らない女の人がいて、兄の彼女だと紹介された双子は
テンションあがりっぱなし、ハートびょんびょん飛ばしまくり。
ソレに負けないくらい対等に張り合っているを見ると、娘が1人増えたようできく江は笑った。
もっとも、にしたら彼に双子の、しかもこんなにかわいい妹がいたとは予想外だったので大層驚きカメラを持ってこなかった事を非情に悔やんだ。
「やっぱあの待ち受けさんだったんだ!」
あすかの言葉に、なに?とはるかが顔を上げる。
は、待ちうけ・・・?ああ、あれね・・・やっぱしてんじゃん、待ち受けに。ププッ。かーわいい。そんな感じだ。
「え!待ちうけさんにしてんの!?」
「そーなの!見たし!」
「うっわーなんかキャラ違う」
「ねー!」
「あはは、ちょっと酷いね君ら」
そう言いつつやっぱり笑ったに、あすかとはるかはすっかりなついてしまっていた。
それから何分後。ようやく少し落ち着いて静かにの持ってきた雑誌を読み始めた双子のタイミングを見計らって
「ちょっとゴメン」
とが立ち上がる。そして、カラカラと庭への窓を開け始めた。
「さむ!」
「あーごめんね、閉めるから。きく江さん、タバコ、吸ってもいいですか?」
灰皿ならあります、と携帯灰皿を見せると、きく江はどうぞどうぞと手を差し出した。
双子はまた興味深そうにわらわらと寄り付きはじめる。
「え、さんタバコ吸うの?」
「えーかっこいい」
「あーダメ、こっちこないで」
制された双子が、寂しそうになんでー?と言うと
「フクリューエン」
と、キッパリ言われ、きく江はきっと息子もこんなふうに言われているんだろうなあ、と想像してふっと笑った。
トントンと小気味いい包丁の音が広がる。相変わらず飽きもせず、の記事を読みながらキャッキャキャッキャと笑う双子を後ろに
きく江とはキッチンで肩を並べていた。ティーカップはとっくに洗い終わっている。
今日はお鍋にするらしく、土鍋でグツグツとダシがいい音を立てている。匂いだけで・・・
「おいしそう!」
味見を頼むと、美味しいしか言わないのできく江は苦笑しながらも安心した。
「でも良かったわ」
「へ?」
トントントン。薬味の葱が細かくなっていく。
「ごめんなさいね・・・私、お兄ちゃんはてっきり悪い人とつきあってるのかと・・・」
「あはは・・・いや、当たり前ですよ」
私の息子がこんなのと付き合ってたらいやですもん、と笑うので、それは全力で否定した。
トントントン。パシャパシャ、グツグツ。
つけっぱなしのテレビの音、双子の笑い声、鍋の音。
「あー・・・でも、これだけは言わせてもらってもいいですか?」
「なあに?」
その優しい返事に、なんだか本当のお母さんといるみたいだな、とは錯覚を覚えた。
「もちろん・・・これからどうなるかなんてお互いわかんないですけど」
「え?」
「シンケンに、お付き合いさせて頂いてます」
ニヒッと笑った顔が可愛くて。母は心底安心して、皮むきも忘れてにんじんを摩り下ろした。
「こちらこそ、よろしくね」
「・・・ありがとうございます」
キ、と自転車の止まる音がする。
「帰ってきたみたいね。2人とも、ごはんにするわよー」
「はーい」
「さんも、食べていってね」
「ありがとうございます」
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