なんでこんなことになっているんだろう。
今さっきまで、親に紹介するだのなんだのでウダウダしてたのに。
なんでさんが、俺の家で、俺の隣で、まるで家族みたいに、鍋をつついているんだろう。
いつ来たんすか。
そんで、なんでそんな和気藹々としてるんスか!!聞いてないっす!!


































Thank-you Smoking.-----22




























リビングのドアを開けると、が鍋に白菜を入れていた。
「おーおかえりい」
「ちょ、さん!!」
「おかえりお兄ちゃん」
昨夜酷いことを言ってしまって、今朝もなんだかぎこちなかった母が何もなかったかのように笑っている。パニクる。
「なにしてんスか!」
「ちょっと〜帰ってきたらタダイマでしょー?」
なぜか双子まで馴染んでいる。いや、この場合馴染んでいるのはだけど・・・知っている顔が飽きるほど並んでいるのに、まるで知らない家族のようだと思った。
「ただい・・・・っつかさん!」
「はいはいなんですか」
鞄もおろさないで顔真っ赤のままで相当アタフタしている息子・ならびに兄・ならびに彼氏を見るのは非情に面白い。
少し癖になりそうだな、と花井にとって最も望ましくない考えが女性陣の脳を掠めた。
「なんですかじゃなくて・・・ちょっと」
「わ」
ぐい、と細い腕を引っ張られる。そのままあれよあれよという間に、花井は階段を上がり自分の部屋にを引っ張り込んだ。
「お兄ちゃん、もうすぐご飯だよー?」
「わぁってるよ!!」
うっわー必死。超面白い。


振り向くと、ドアの前でがキョトンとしている。キョトンじゃねーよ、まったくアナタって人は・・・。
「何してんスか、さん」
「何って・・・おじゃましてます」
「だっ・・・から、何で??」
「何でってー・・・ご挨拶?」
ニヤ、となんとなく笑った顔に、絶望的な溜息を花井は吐く。毎回思うが、あの7組・・・いや、野球部の会議はホンット身を結ばない。
「ご挨拶って」
「あ・・・やべ、マズかった?あわせたくなかった?」
「いや・・・」
力が抜けたようにベッドに腰をおろす。バウンドして体が少し跳ね返る。顔を上げると、は抑えきれない興味のためか
反省している態度を半分残したまま、もう半分でキョロキョロ部屋を見回していた。
「ちょ、こっちきてください」
「はい」
おとなしく花井のベッド、すぐ横に座る。あー近い。近い近い。毒だこれは。
「あのー・・・なんで挨拶来たんすか。しかも俺に黙って」
「えー・・・だって花井君に言ったら絶対ダメって言うじゃんすか」
「い・・」
言ったかもなあ。ダメじゃなくても、今度にしてくださいとか、言っただろうなあ。
「ですけど」
「なに、そんなダメ?」
「いや、ダメとかじゃなくて」
ふと見た顔。ぶーたれて歪んだ眉に、ほっそい目。うっわ可愛い。なにこの顔。
卑怯だな。ああもう認める。この人は世界一卑怯な女だ。そんなんで全部乗り切ってきたんだ今までゼンッブ!
その手に乗るか!
「・・・まぁ、いいっすけど」
「・・・ふーん」
ちょ、せっかく折れたのに!
「・・・不満っすか」
「・・・フマンだね」
「じゃあどうすりゃ・・・」
ふいに頬を冷たい手で包まれてちゅ、とされた軽いキスに全部奪われて。花井はカチンと、冷たい部屋で固まった。
「タダイマは?」
かみ合ってないでしょ。そんなの今関係ないでしょ。なんでそうやって全部・・・・好きにさせるんですか。ったく、チクショー。
「た・・・だいま」
「おかえり」
その笑顔に思わずキスしようと頬に手をかけた瞬間。
「ごーはんできたよおお!!」
階段から聞こえてきた声にドキッとして、は次の瞬間笑った。









どうも、花井とのやりとりを観察しているあの3人が非常に目障りで仕方ない。
はさして気にするふうもなく、花井に野菜とか野菜とか野菜とかごはんのおかわりとかをとってあげているのだが
何か言うたびに2人の関係性をこれでもかと汲み取ろうという意思がひしひし伝わってきて、飯の味なんか正直分かったものじゃない。
繊細梓。隣に、彼女がいます。
「でも、さんもモノズキだよねー」
そう切り出したあすかの顔がニヤニヤしているのは気のせいではない。殺すぞお前ほんっと。
「え?なんで」
笑いながら、きく江にすかさずお茶を足すはやっぱり大人だ。
「だって、あたしだったら絶対ないわ」
「あたしもないわ」
「テメーらな・・・」
「あはは。愛されてんね、お兄ちゃん」
結構な質問をされているが、やっぱり交わすのがうまい。口が達者だ。
「どこが好きなんですか?」
それ聞くなよ。マジ、せめて俺のいないところで聞けよ、バカ双子。そう思いながらお茶をすする花井の顔は赤い。
「んーーーーーーーーーーーーー」
めいっぱい、これでもかと、花井が不安になるほど溜めに溜めてが出した結論は。
「わかんない」
だった。
「えー?それって大丈夫?」
「おかーさん、さんあんなこと言ってるよ?」
そんな事言われても、母は笑うしかない。
しかし
「わかんないけど好きよ」
そういいながら、横目でチラリと花井を見る。さらに顔を赤くさせた花井は、そんな意味不明の言葉で十分幸せになれた。
「え、じゃあ」
「おい、いい加減にシロ・・・」
「うっわ、顔真っ赤じゃん!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・!!!」
「あはははは」














霙交じりだった雨は、きれいな雪に変わっていた。ふう、と息を吐く。
「さむいね」
駐車場まで、あと2分。家から出て、やっと繋げた手から、体温がにじみ出て溢れて、ポロポロ零れ落ちそうだ。
「花井君」
「はい」
「あれだね。いいね、キミんち」
「・・・そっすか」
「お母さんもあすかちゃんもはるかちゃんも、超可愛い」
可愛いって・・・。
「大事にすんだよー。」
「俺、常に肩身狭いんスけど」
「あはは、わかる」
街灯に照らされる横顔。帰らせたくないけど、いつまでもあの家にいたらそれこそセックスの事まで聞き出されそうで非常にマズい。
心の中で散々別れを惜しんで、つきたくもない駐車場につくと、は車のキーを捜しながら花井を見上げた。
「ひまなとき連絡してね」
「え?」
「遠慮とかいらないから。忙しかったら返事しないし。」
「あー・・・はい」
「それと」
探し当てた鍵を車に刺す。ガチャリ、と音がして、はゆっくりドアを引いた。
「今度はちゃんと泊まりにおいで。おかーさんにちゃんと言って」
花井の返事を待たず、はドアを閉めて手を振った。

駐車場に残された花井は、降っていた手をそのまま頭に持っていく。
気づいたらニット帽を両手で掻き毟っていた。

「だああああああああああああ」

なんつー・・・なんつー
なんつーエロい誘いだ、それは。

































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