件名:無題
本文:明日練習昼からなんですけど
このどうしようもなく「だから何」のメールがめいっぱいの花井梓16歳の誘いだという事は百も承知で
はそれをいとも簡単に手のひらで転がしてみる。ころころと面白いように転がる球を見て
少しの罪悪感と、めいっぱいのウキウキを感じてしまう
件名:無題
本文:だから?
・・・このドS!!
2時間目の昼休み、またしても携帯とにらめっこのキャプテンを
どうせとメール中なのだろうと簡単に見抜いた阿部と水谷は無表情で見守った。
花井はぐ、と携帯を握り締めた後、ペコペコとメールを打っているように見える。顔が赤い。何打ってるのか非常に気になる。
題名:無題
本文:今日、泊まりに行ってもいいっすか?
イチャイチャもキスもセックスも全部一度にあからさまにこもったメールは
「・・・相変わらずきもちわりーな。花井」
「・・・うん」
やっぱ恥ずかしい。
Thank-you Smoking.-----23
あの「様サプライズお宅訪問」から一週間と4日。
学校でも嫌という程田島に追及されているというのに、家でもほぼ同じ事態になってしまった。
口を開けば「さんってー」「に会いたい」「さんさんさん」
いい加減にしてくれ。こっちは名前が出るたびにドキドキしてるっていうのに・・・まったく心が休まらない。
数日前そのことをメールでに告げると、「今だけだよ」と軽くあしらわれた。
そうか、いつか、付き合ってることも当たり前になって、キスもセックスも当たり前になって・・・
それってすごく幸せな事だと分かりつつも、少し寂しいかもしれないな、と我儘を思いついた。
案外、お泊りを前に冷静でいられる自分はなかなかすごいと思っていた。
練習態度も問題ない、今日はバッティングもピッチングもなかなかのできだった。
それに、練習中のぼせた「さん」もなかった。これはいいことだ。少し自己満足にひたっていた花井だったが、
練習の終わりを告げる百枝の「集合」の声を聞いた瞬間
一瞬にして心臓が早鐘を打つ。うっわ・・・。
「花井〜コンビニよる?」
聞いて欲しくなかった。もう、このメンバーの前でのことで何回赤い顔をさらしているかわからない。
「・・・よらねぇ」
必死にとりつくろった花井の警戒とは裏腹に、メンバーは「ふーん」と言ったっきりだった。
胸をなでおろす。あーよかった。
そんなやりとりを頭の中でぐわんぐわんさせながら、本当は全速力で着替えたいのを悟られまいと
いつもより若干遅めに身支度を整える。ペースをあわせるターゲットにしたのは水谷だった。こいつはとにかく遅い。
バタン、とロッカーを閉めた瞬間。
「あーあ、玲奈に会いてぇ!」
田島のふいに出した大声に、大きな肩をびくっと震わせた。
「あ〜でも最近練習にも来てないしねえ」
「お、おれも、会いたっ」
「花井ばっかズリィよなあ、ゲンミツに!」
「なに言ってんだよ!」
勝手なことをポンポン言ってのけるメンバーに、未だにどうしたらいいのか分からない花井は焦る。
「あー会いてぇーっていつ暇なの?」
着替え終わった田島が靴を履きながら花井を振り返り見上げる。本気だ。休みの日知ってたら、いやでもこいつは会いに行くだろう。
「・・・しらねーよ」
実際全然知らないんだけど(どうせ不定期だから知りようもない)知ってても誰にも教えるもんか。
いまんとこ、の休みは全部自分に使いたい。うわ、独占欲。
「んでも、俺もたまには会いたいな」
ヘッドホンを首にまわして、今度は水谷が靴に手をかける。一瞬見たウォークマンの電池はひとつになっていた。
「・・・言っとくよ」
「うっわーなにそれ、彼氏みたいじゃん」
何故か顔を赤くした栄口に花井はめいっぱいの間のあと「彼氏だよ!」と吐き捨て、田島と水谷をまたいでそそくさと部室を出て行った。
「デートだね」
「だな」
「もおおずりいよおおお!!!」
思春期・西浦ーぜ。自分なんか方や家でオナニーにいそしんでいるというのに
同年代の花井ときたら、最近彼女ができて、しかもなんとだって
そんなの羨ましいに決まってる。決まりまくってる。理不尽は分かるが、言わせてもらう。
花井、ずりい!!マジ卑怯!!
お泊りの条件
・一度ちゃんと家に帰ること
・きく江に報告すること
そんな小学生みたいなお約束を守るため、花井は家までの距離をひた走った。
「あらおかえり」
「・・っだいま」
部屋に直行した花井は、服を着替えてさっきまで持っていた鞄に明日のぶんのアンダーをつめる。
脱いだ服を洗濯機に放り込むと、鞄を持ってリビングに戻った。
言わなきゃいけない。恥ずかしい。緊張する。普通に、普通に言うんだぞ、自分。
きく江が振り返ると、逆方向を向いた息子がテレビを見ている。足元に、鞄。
「あら、これからまた練習?」
「あー・・・・」
今まできく江に言ってきたどの言葉より、それは緊張した。
「泊まりいく。さん家」
向けられていない彼の顔を想像して、きく江は噴出しそうになったのをあわててこらえた。
きっと真っ赤になっているんだろうな。やっぱり息子は可愛い。
「アラいいの?」
「いーっつったよ」
「迷惑かけちゃダメよ」
「あー」
「あ、何かおみやげあったかしら・・」
「いーよ!」
こんなふうに言葉を交わすのは、ちょっと久しぶりだった。熱いお茶を出すと、ものすごーーく小さな声で「どーも」と言われた。
そうね、少しずつ。こんなふうに大人になっていってくれたら。少し寂しくて少し嬉しい。
まったりと時間にひたっていると、花井の携帯が震える。反射的に急いで出ると、愛しい、間延びした声が聞こえてきた。
『あーど〜もお』
「・・・ども」
『今おうち〜?』
「はい」
『あとねー2分くらいで着く』
「じゃあ外にいます」
『さむいよおー』
「いいっすよ」
なんかこれ以上、ここにいたくない。和みを感じている母とは対照的に、むずがゆいようなくすぐったいような
花井はそんな雰囲気が苦手だった。
『んじゃいそぎまーす』
「はい」
通話終了ボタンを押し、ふう、と息をつく。はっとなって後ろを振り返れば、きく江が口をパクパクさせて片手を出したまま固まっていた。
「な、何?」
「もっ・・・もおお〜!!なんできっちゃうのよお!」
「何でって・・・何が!」
「おかーさんだって挨拶しときたかったのにい!!」
バカバカ、と母の業を成せなかったきく江にハイハイと手を振り、花井は玄関を出た。
まったく、あの双子が部屋から出てこなくて良かった。知られたら大変なことになる。ついて、来かねない。
そしては、いいよといいかねない。
車内は、花井がニット帽をとるかどうか迷うほど暑かった。そして何故かは、Tシャツ1枚だった。
「きのー買ったの〜。上着とかで隠したくなくってさあ」
のん気にそう花井を招きいれアクセルを踏んだ。Tシャツにニット帽という不思議なカッコの彼女に、まったく底知れない。
「・・・風邪ひきますよ」
「かまうか」
「っつかなんで帽子・・・」
「さむいから」
「・・・じゃあ上着着ればいいのに」
「っさいなー」
「・・・さんの優先順位、わかんないっす」
呆れた顔をしてみても。心の中は血沸き肉踊るだ。たのしー。たのしい。たのしいい!!
見上げれば白い月。土曜の夜、10時2分。
見慣れた街が、段々、の住む街へとすりかわって行く。
ピザとるよ。お菓子も、あと高校生が飲みそうなジュースもいっぱい買ってあるよ!
気がついたらのマンションに到着したいたので、どこにも寄らないんですか?と聞くとそんな返事がかえってきた。
実は、少しだけ期待していたの手料理。経験がないのでこれは一般論で言わせていただくが、こうゆう時って
彼女は手料理とか作るモンじゃないんだろうか。うーん。
「・・花井君」
「・・・なんすか」
ドアに鍵をれながら、がこっちを見た。
「花井君は、料理うまそうだねえ」
「は?」
ガチャリ、ドアが開く。ふんわりするのはタバコの匂い。こんにちわ、ただいま、いらっしゃいませ。
「ゲェ!趣味わる!」
「え?なんで??」
慌てて花井がまとわりついてくるの顔を見る。ソファの上、の体重、片手にはドミノピザのメニュー表。
どれでもいいから好きなの言って、て言ったくせに、さっきからケチばかりつけるに花井はまいっていた。
「そんなワケわかんないの食えないよ!べつのにして!」
「うまいんですってコレ!」
「おかしーよ花井君・・・」
「・・・・っ」
じゃあもうこれでいいです、と4種類のやつが等分になっているののLサイズと、ベタなのを一つMサイズと、
サイドメニューも頼んだ。正直、ピザだけ腹いっぱい食ったことのない花井は
いくら今空腹だからとはいえどれだけ食べられるのか分からない。
残したらスイマセン、と言った花井に「明日お弁当にもっていけば」とイジワルを言っただった。
腰にまわされた手。まるで赤ん坊みたいに、が自分の腹の上で甘えてしゃべっている。
「あした何時に起きるの?」
「っとー・・・10時くらいで余裕っす」
「今日は学校どうだった?」
「なんすかソレ」
ああ幸せ。でも動かないで。さっきから胸がチンコにあたって、ほんっとヤバイんです実は。
ごく自然に会計を全て払ったの背中を見ながら
花井は、いつかちゃんと自分がおごろう、と決心した。
嬉しそうにテーブルいっぱいピザと飲み物を並べ終えて、頂きますを言う。
が「これがおいしい」と言ったピザは、花井には少し辛かった。
「んで?」
「え?」
「学校はどうですか?」
「いや・・・別に普通っすよ」
「普通ってなに」
「なんでそんなん聞きたいんすか」
「だってさーもー高校ん時のことなんか覚えてないんだもん」
チューハイを飲んでいるの顔が少し赤くて、それを指摘すると「今日はちょっと弱い」といわれた。
自分が言った事に玲奈が笑う。そうゆうのが、最高に嬉しい。
自分といて楽しいんだって感じると、自分がここにいていいんだと思える。いや、よくなくてもいるけど、やっぱそれはしんどい。
ピザを食べてサイドメニューをつまみながらダラダラしゃべっていた日付が変わるまでの時間は
相当、楽しかった。
入って来いと促され一人で入った風呂から出ると、新品のスウェットとTシャツが置かれていて
アンダーでも着て寝てればいいと思っていた花井は、横に置かれた歯ブラシにもめっぽういたく感動してしまった。
知らないけど、知らないけど。知らないけど、きっと同じ年齢の女の子と付き合ったらこうはいかない。
どっかの芸能人がテレビで言っていた「年上の女性のほうが好みです。ラクだし」の言葉を思い出し、深々と同意したのだが
ドアの向こうから聞こえてくるのシャワーの音に高鳴る胸は、ラクとはまったく反比例した感情だった。
少し火照った頬にドキドキして、少し濡れた髪にドキドキして。歯磨き粉味のキスに、これ以上ないほどドキドキする。
もう心臓止まって死んじゃうかもな。確か、好きな女の胸の中で死ねるのは相当幸せだと聞いた。
死ぬのにはまだ早すぎる花井の胸も頭も、しっちゃかめっちゃかかき回すのは
やっぱり玲奈しかいなかった。
「花井君さあ」
キスのあと、絡む指がもどかしい。いっそくっついたままなら幸せなのに。
「あたしのこと好き?」
それは、何週間か前は別れの言葉だった。あのとき自分は、恥ずかしいぐらい大きな涙を流したんだけど
その胸のチクチクを思い出しても、やっぱり嘘はつけない。どんなに唐突だとしても。分かりきった事だとしても。
「好きっすよ・・・むちゃくちゃ」
一瞬の間を置いて
「どこが?」
その質問は拍子抜けの予想外。花井は焦る。
でも分かる。スキかどうかってことより、聞きたいの、そっちだったんスね。
「どこがって・・・」
「いつから?」
「いつか・・・ら?」
そんなの知らない。だって、最初は絶対ただ憧れてるだけだと思ってた。
なのに、あなたが俺に笑ったんじゃないですか。あなたが俺の前で泣いたんじゃないですか。あなたが―
俺の腕を引っ張って、名前を、呼んだんじゃないですか。
「・・・わかんないっす」
そのなんとも言えない答えに、何故かは笑って花井を抱きしめた。タバコの匂いのしないは、はじめてかもしれない。
「なーんかさぁ」
「・・・はい」
「花井君、よく言うよね・・・好きって」
ポン!!はじけたように顔を真っ赤にしはじめた花井。え?そんな言ってたか?言ってるか?言ってるな。言ってるなオイ!俺言っちゃってるかもな!
何も言い返せない花井に満足げなお姫様は
そっと、今日何度目かの唇を重ねる。
だいたい
よく言うねって
あなたがよく聞くんじゃないですか。
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