そろそろ暖かくなって来る頃だろうか。のはやる気持ちとは裏腹に、外にはまだ緑は足りない。
はやく緑が芽吹けば・・・そしたら、花井君は高校2年生になるんだなあ。
ぼうっと考えて、今日が何日だったかと考える。
打ち合わせや仕事のスケジュールはいちいち入っているのに、日付感覚がいまひとつ無い。
何日後にコレ、あと何日でコレを仕上げる。
そんなふうに生きているものだから、だからバレンタインなんてものにも気づかなかった。
彼にはちょっと可哀相な事をしたかなーとも思ったが・・・今更バレンタインなんてなあ、とも思う。多分、そっちが正解。
花井君は確かもう春休み?あ、まだか。やなんだよねー2月にダラダラ学校行くの。そんなふうに思い返してみる。
とにかく何日だっけ、と携帯を探してはっと気づく。
やべ、忘れた。・・・・・・・・・まあいいや。
簡単にアッサリ諦めたは、打ち合わせがある小さな出版社までの道をタバコを吸いつつのんびり進んだ。
Thank-you Smoking.-----25
同時刻。
授業が4限目で終わり、さぁ今日も一発かますかーなどとニヤニヤしながら部室へ向かっていたら
珍しく、志賀と出くわして全員図書室に案内された。
「何なんスか?」
「ん?今日はね、僕の講義だよ」
「は?」
志賀は「メンタル」を押して押して押しまくる。実際役立っているのは事実だが。
全員が揃ったところでホワイトボードに何本ものラインを引き、赤や青で繋ぎ合わせては何が大事か、何が必要で何が不必要か。
授業はあんなに眠くなるのに、不思議だなぁと誰もが思いながら、話を真剣に聞いていた。
「まぁ何が言いたいかっていうと、お互い信用することだよね。とってくれる、守ってくれるって思うこと」
そんなの今更かな、と、言ってから気づいた。季節は巡って、このチームが出来てから1年が経とうとしている。
もともと、よくもまぁってくらい皆良い子ばっかりで目立った諍いも無かった。
でも、たまにはケンカもいいんじゃないかと思う。誰かがどこかで何かを抑えているんなら―・・・・
「ま、お前は信用できねーな」
その言葉に振り返ると、泉が笑って水谷を指差していた。
「し、しどいよ泉!」
「レフト交代間近〜」
「ウェエン!」
抑えている・・・もないか。滋賀は苦笑しながらホワイトボードをきれいにした。
失敗して反省して、笑って活かす。そんなのとっくに分かってるんだろうな、この子たちは。
「よし、じゃあ今日は終わり!」
「え?」
「監督が忙しいみたいでね。で、体育館もグラウンドもとられちゃったから今日はもうおしまい」
「シガポほんっとジャンケン弱いよね・・・」
「ごっめんねー」
というわけで解散。そういわれ、少し体を持て余しながら各自どこへ寄るだのなんだのって話をしている中
花井だけが、携帯に向かってまたもや奇妙な顔を浮かべていた。
花井、またさんかよ。いい加減にしねーとほんっと・・・。
件名:あの
本文:今日暇っすか?
10分前に送ったその返事が、かえって、こない。
「花井はファミレスいかね?」
巣山が振り返る。
「いっ・・・」
やめとく、と言おうとして、ぐ、と息を飲んだ。返事も返ってこないし・・・返ってきたら抜け出せばいいか。
「いこっかな!」
その答えに、阿部が珍しがった。あれ?どうしたんだろ。もしかして返事ねーのかな・・・やっべ、それ面白い。
1人で面白がっている阿部に、「何」と聞くと「べっつに」と無愛想に返された。
自転車でファミレスまで向かっている分岐点。方向を変える4人の自転車。
「あれ、ファミレスそっちじゃなくね?」
「俺ら隣町のゲーセン行くから!」
田島と三橋と泉と水谷、9組プラスワンの連中は、今日新しいシリーズのシューティングゲームが入荷されるとどこかで聞きつけそれに行くという。
「んじゃな!」
元気に手を振る4人を見送って、花井はなんとなく携帯が震えた気がして慌てて鞄をあけるが、ウンともスンとも言ってませんと携帯は微動だにしていない。
仕事中なのかな。んー・・・きっとそうだろう。そうに決まってる。
その一部始終を見ていた栄口と阿部が、顔を見合わせて、申し訳ないが笑った。
時間通り到着した小さな出版社。中に通されると、太った女性が暖かいコーヒーとジャムクッキーを出してくれた。
お礼を言ってコーヒーを飲む。つまんだジャムクッキーが美味しい。なにこれ超うめー。
1人ティータイムに浸かり始めたの前に、ひょろりとした男が立っていた。
「おあ、山城さん!どうも」
「よー、元気?」
「超げんきー」
この出版社の小さな出版物、その中の穴埋めみたいなコーナーのピンチヒッターを、はよく頼まれる。
山城という男との仕事の付き合いも、もう5度目なのでなかなかどうして、うまいこと慣れてきた。
彼は自分で持ってきたコーヒーをテーブルの上に置くと、向かいのソファに座り、脇に抱えていた資料を無造作にに手渡した。
「「高校生の恋愛事情」?」
「うん」
ぶっと噴出したに、山城が驚いて顔を覗き込む。
「なに?なんか変?」
「いやべっつに・・・」
その顔は完全にバカにしているようで、少々しゃくに障る。きっとじゃなければ不愉快になっていたことだろう。
ペラペラとおおざっぱな企画内容を把握しながら、たった5枚の紙を全て読み終え顔を上げる。
「でもこれ、おじさま雑誌でしょ?いいんすかこんな企画」
「いやね、娘の事とか気になっちゃうじゃん?どうゆうふうに付き合ってるのかなーとかさあ」
「ああ」
妙に納得してしまう、いくら見た目がどうであれ、彼女ももう人の親でもおかしくはない年齢。
そして目の前の男は、5歳になる娘がいる。
「で、まぁなら歳もそこそこ近いしさ!」
「ものっすごいアバウトな企画書ですねコレ」
「うん。信用してるもん」
「あたしん事ですか?」
「モチロン」
にこーっと笑った、一回り年上の男に、はお得意の凛とした笑顔を返事として返した。
高校生の恋愛事情。今まさに高校生と付き合っている自分にとって、ものすごく簡単なようで難しい企画ではあるな、とふと思った。
「もちろんいくつか繋ぎ合わせるけど、の記事一番大きく扱うからね」
「まじっすか」
「まぁじ」
「で?ナンボほどもらえるのソレ」
ロコツにいやらしい顔で笑ったに、山城は普段の2倍の額を呟いた。
去り際にジャムクッキーのメーカーを聞くのを忘れたが、面倒だったので今度聞こうと思います。よろしいですか。
「やっぱ並んでんなあ」
「並ぶー?」
「んー」
かるくおやつでも食ってからにすればよかった。焦って来てはみたものの、4人の前に見える光景は人、人、人。
他校の同じ境遇だろう生徒が10人ほど、新しいゲームに列を成している。
もちろん、今プレイ中の人を筆頭にワンコインで終わらせるはずがない。皆ポケットの中に100円玉は両替準備万端だ。
このゲームは全部で10面。どんなに待っても・・・2時間はかかりそうかも。
「どうしようか」
「んーでもやりてぇよなあ〜・・・」
「そうだねえ」
ウダウダし始めると、スッとまた列に並ぶ見た事もない他校の生徒4人。
西浦の4人は、少し諦めたように店内を物色する事にした
矢先。
「わああああああああ!!さん!」
水谷が指差す方向に、びっくりしてUFOキャッチャーのボタンを手放してしまったがいた。
「!!!久しぶりじゃん!!」
抱きついてくる田島を受け止めながら、三橋と泉と水谷にも手を振る。
「ひさしぶりー。何してんの?学校は?」
「ひるまでっ」
ネコのようにスリスリしてくる田島を笑いながら撫でていると、水谷もぴったり隣に寄り添ってくる。
「さんゲーセンとか来るんすね」
少し意外そうな泉にニーっと笑うと、彼は田島を義務的にひっぺがした。キャプテンの彼女だからじゃない。ほんとに、なんとなく。
「いや〜高校生いっぱいいるかなあと思って」
そう言い終えた瞬間、何もキャッチしてないUFOが定位置に戻ってきたので思い出したように振り返った。
「ちょっとねー次の仕事で高校生がターゲットなのよ」
「ああ」
納得したように水谷が言う。
ひとつ前の言葉で実はは高校生キラーを生業としているのかと勘違いしていた水谷にとって、大変好ましい説明だといわざるをえなかった。
「高校生いっぱいいるかなーと思ってきてみたんだけど・・・」
なんか気後れしちゃって、となんだか残念そうな顔で微笑む。うまくいけばアハハーって感じで混ざれると思っていたのにそうはいかないらしい。
「なんで?めっちゃ俺らん時は馴染んでたじゃん!」
どうでもいいけど、田島、顔近いよまったく。
んーっと一瞬考えたは、ポケットからまた100円玉を取り出して言った。
目指すはあの変な顔したバナナのぬいぐるみ。
「君らは違うでしょ、なんか」
「え?」
通り過ぎた赤髪の高校生が、を見てニヤニヤと笑った。
はその子が吸っているタバコをじっと見つめたあと、挑発するように自分のタバコに火をつけてニヤニヤを返す。
どっちがサマになってるかなんて一目瞭然で、高校生はバツが悪そうに去っていった。
充分子供っぽいよなあ・・・と思いながら、それはいえない。言えるわけない。目の前にいるのは、「様」だ。
「みんな大好きだもん」
さっきとはまるで違う顔で振り返ったが嬉しくて、少しだけ花井の事を気にかけもしたが、やっぱ素直に嬉しい。
「俺も大好き!」
「お、れも!」
「俺もぉ」
泉は少し笑っただけだったが、返事には充分だった。
昼過ぎのファミレスには、同じ高校の生徒も何名かいたりして。やっぱ田舎ってこうだよなーとボンヤリ思う。
ドリンクバーだけを注文したメンバーは、野球やその他雑談に花を咲かせる。
「花井は?」
「え?」
聞いてなかった。ああ聞いてなかった。はぁ、と阿部が溜息をついたので、ぐ、と飲みかけのレモンティーを飲み干す。
「花井さあ、今日なんかあったの?」
栄口がチラシのケーキを食べたそうに見つめながら言う。我慢我慢、ケーキはゼイタクだ!
「何って?」
言葉とは裏腹に焦り始める花井。もう何度この顔を拝んだか。いい加減にしろと言いたいが、しょうがないのかもとも思う。
彼女が出来るって・・・好きな人が彼女になるって、たぶんこうゆう事だ。自分もきっとこうなる。
想像は容易で、だから花井を攻める気にはならなかった。・・・野球に影響しなければ。
「ずっとソワソワしてるし・・・ケータイばっか見てるよ」
西広の指摘に、う、と声が止まる。
「どーせさんから返事がこねーとかじゃねぇの」
阿部の鋭さは時に非常に迷惑だ。とは言え黙ってくれている時もあるかと思うと、いちがいにやなやつとも言えない。
「ま・・・まーね」
まーねって。栄口が噴出すと、花井から真っ赤な顔で視線を浴びてしまった。
「忙しいの?最近」
「わかんね」
いつしか全員その話題に切り替えたようで、まったく居づらいったらありゃしねー。もう、何さもう!
「まぁライターなんて不定期だよなあ」
「いちいち聞いてらんないか」
「でもさんってさあ」
今度は勝手な性格想像大会になってしまって、どうしようもない。加わることはできず、ずっと聞き耳を立てていた。
コ、コーラが500円?コーヒー800円?なにこれ!?
に誘われて着いて来た喫茶店は、およそ高校生が相当の背伸びでもしないと入れないようなオシャレなカフェだった。
なんで今日に限ってさんにもらった服を着てこなかったんだろうと悔やむ4人を尻目に、はズンズン進む。
ビルの8階にある店内の敷居をまたぐと、キレイな女性店員に窓際に案内される。
革張りのソファ、流れるジャズ音楽、ただよってくるのは味わったことの無い大人の雰囲気。
丸く囲われたテーブルで、を中心にして両サイドに田島と水谷、外側に泉と三橋が座った。
メニューを開いて、どれでもいいから頼みなよーと笑うとすぐタバコの火をつける。
小さな小さな灰皿で、それじゃ2本くらいでいっぱいになっちゃうんじゃないかと思った。
「いいんすか?」
「いーよーん。遠慮すんな」
「うっはぁ・・・」
ドリンクメニューを超えてフードメニューを超えて、急にかわいらしくなったと思ったらデザートのページだった。
「うっまそお」
「フミキ甘いもの好き?」
「超、大好きです!特に生クリーム!!!」
カラカラ笑うの頭上に広がる煙は瞬く間に空気清浄機に吸い込まれる。それでもただようタバコの香り。
「俺メシ食いたい!」
昼ごはんを食べてまだあまり時間はたってないが、いつだってなんだって食べられる、成長期。
軽く了承したが思い出したようにメニューをめくって指差した。
「シーフードカレー美味しいよ」
「じゃあそれ!三橋は?」
「おれっ・・・」
「なんでも食べな?」
ぱっと顔を明るくして、三橋が指差したのはオムライスだった。
続いて泉がドリアを指差し、水谷は横に生クリームたっぷりのホットケーキをに告げる。
ぱらぱらっとメニューをめくった後、が手を挙げると店員がすぐ駆けつけた。
「んーっとシーフードカレーとーオムライスとードリアとホットケーキとおー」
はい、はい、と言いながら黒い板の上の伝票にスラスラ文字を書いていく。よく見ればおっぱいもなかなか大きい。
「あと美味しいコーヒー。なんかオススメの。甘いのがいいな」
了解です。そう少し悪戯っぽく笑った店員に、ああ、もしかして顔見知りなのかな、と想像する。
「あ、君ら飲み物は?」
そういえば聞いてなかったがふると、全員急いでメニューに再びかじりつく。
クスクス笑いながらふと店員と目があったが微笑むと、いつもありがとうございます、とその女性は笑った。
「でもさー、不安にならないの?」
やっと落ち着いた、と胸を撫で下ろした花井に爆弾投下したのは意外にも巣山だった。
「え?」
「いやさあ・・・だって向こうは大人なワケでしょ?」
向こうは大人なわけで。ぶっちゃけた話、仕事だって言われたら何されても分からない。こっちには把握のしようがない。
「さんってフレンドリーだしね」
「確かに。どこまでやっちゃうかわかんないってのはあるかも」
みるみる青ざめていくキャプテンの顔に、阿部が押し殺しつつもニヤニヤと笑う。
「ねー、どっからが浮気だと思う?」
ド定番の話題を持ちかけたのは沖で。
「俺は手ぇ繋いだらダメかな」
「あ、じゃあメールは?」
「えーヤダ」
「心せま!」
彼女もいないくせに想像でここまで盛り上がれるのは、たった1年前まで立派な中学生だった証で
花井は頭を抱えて悩む。どこからが浮気だろう。
セックス?もちろんない。ハグ?田島やってんじゃん!手?それも誰でもやれそう。
なんかそう考えたら、は大人だから、って言えばなんでも片付く気がする。
自分とセックスしてるのはもちろん、恋人だからだって分かってる。ケンちゃんだってあの時以来不安材料にはなってない。
でも、大人って・・・・どこまで許すんだろう。大人同士と子供相手だと、その境目はどうなるんだろう?
ああ不安。もう不安。不安街道超特急まっしぐら。各駅じゃねーからな!直通だかんな!
すっかり不安駅までの片道切符を購入してしまった花井に気づいたように、阿部は溜息をつく。
「まぁでも、人それぞれじゃねぇの。」
「え?」
顔を上げたキャプテンの顔は、教室でいつも右往左往している顔となんら変わりは無い。
「そーゆーのを価値観っつーんじゃね」
きっと
セックスしたって許す人もいる。キスしたって気にしない人もいる。じゃあその人たちがおかしいのかって、そうじゃない。
それはそれでうまくやっていけるなら、何の問題もない。
はどっち?
そういえばさんは。さんは、俺にヤキモチやいたり、するんだろうか。して、くれるのかな。
少し待たせるなーと思ったら、4人のメニューを一度に出された。
いいよ気になさらず、先に食べてよ。そんなショボい会話を交わさなくて済む、ここはファミレスとは違う。
「うっめぇ!!」
シーフードカレーのでかいエビが口に入ったまま田島が親指を立てる。三橋もはふはふいいながらオムライスを食べて
泉も必死で冷たい息を吹きかけていて、水谷はとっくに天国行き。
そんな4人を満足そうに見つめながら、はキャラメルソースのかかった甘いコーヒーを飲んでタバコを吸った。
「んれもはぁ」
「しゃべりながら食うなよぉ」
さして怒っているふうもなくカラカラ笑うの言葉を聴いて、田島はぐっと中のものを飲み込む。
「っていっつもこんなとこきてんの?」
「えー?あーんー・・・いや、べつに」
そうでもないかなあ、と、充分思い出して答えた。
「ファミレスも好きだよ〜あの学校の近くのとかよく行く」
「あ、今日そこみんな行ってるんすよ」
泉がスプーンを口元に置いたまましゃべる。もう湯気は少しになっていて、大きな目がよく見えた。
「まぁじで?仲良しだねー」
「仲良しっつーか・・・」
部活ばっかやってると、他の友達とかいねーんですけど、ほとんど。一瞬の沈黙で全てを読み取った、読み取れてしまったは
やっべー・・・と思いながらつい笑ってしまった。
「ねぇ、他の子はどうしてる?こうゆう時」
「ほかのこ?」
「んー、クラスのほかの人たち。いまどきの高校生って、暇なときなにしてるのかなーって」
よく思い出す、のために。思い出せ思い出せ・・・他のやつらが、どこで何するって教室で聞こえてきた?
「あ、カラオケ行くとかゆってるやついたな」
「あー俺のクラスにもいたよー」
「都内まで出るってヤツもいた」
「いるいる」
「そういえばファミレス行くっつってたヤツもいたよな」
「そうだそうだ。じゃあみんなと会ってるかもね」
「ねー」
会話を聞きながら、んー、と沈黙したあと。あんまり自分のときと変わらないんだねと言うと、そんなに違わないとズバっと言われた。
「違わないっつったってさあ・・・」
少し苦笑しながらはガラスの向こうを見上げる。空は晴れていて、下にはサラリーマンにカップルに学生。
「7つも違うんだよ」
君らが生まれたとき、あたしはもう歩いてしゃべって学校に通ってた。漫画だって読んだし、好きなアニメだってあった。
そんなふうに言われると、なんだか歴然とした違いを突きつけられたようで、4人がつい黙る。
見た目は高校生とそう大差なくても、やっぱは大人なんだ。
「君らが卒業する頃なんか四捨五入で30っすよ」
冗談めいた言葉に笑うが、ずっとずっと、大人に見えた。
だからって彼女の魅力がどうなるってわけじゃない。でもどこか少しだけ切ない気持ちは正直で
花井ってこんな感情なのかなーって、こんなやりきれないような思いと向き合わなきゃいけないんだなーって、少しだけ分かったようなそんな気がした。
「まぁでもさ!」
突然の田島の声に4人が顔を上げる。皿はとっくにカラになっている。
「ババァんなって行き遅れてたら俺がもらってやるし!」
「てめぇババァとか言うなよ!あーもー絶対老けない!アンチエイジング!」
「あははは、さんウケる」
それから美味しいデザート(水谷も頼みました)をたべながらポツポツ話す。
ねぇさん。
やっぱさん最高です。
俺らより7年前に生まれて、俺らより7年分の知識を持って、今、俺らと出会って、テーブルを囲んで。
やっぱ俺らは思いますよ。
さんが、7年前に生まれてくれてよかった。西浦に通って、モモカンと出会ってくれて本当に良かった。
花井じゃなくて、俺だったらって多分全員が思ってる。
でも花井の彼女でも、憧れてます。
「そうゆう意味」で、みんな、さんが、めっちゃ好きです。
もし花井と分かれたら
とか、ズルい気持ちもあるけどね。それは許せよ、だってしょうがないだろ。
一方。
ドリンクバーのおかわりも忘れて、談義にまだ花を咲かせているその他メンバー。
花井はとっくに諦めたようで、もう携帯をチラチラ見ることもなくどこまで答えたらいいのか分からないような質問攻めに会っている。
「料理できないんでしょ?手料理作ってもらいなよ」
「あー・・・うー・・・」
食ったけどね、こないだ。焼いただけでも炊いただけでも、味噌汁までついたら料理だ。そう思いたい。
「ってか泊まり行ったりしてんの?」
「あー・・・うー・・・」
「さん部屋きたなそー!!」
「それはある」
「オイ」
心臓口から飛び出しそうになった花井が振り返ると、そこにはニコニコ笑顔のすぐ下に般若の顔を隠したがいて
その横には田島と三橋と水谷と泉がいて・・・え?なに?え???
「さん!」
栄口が名前を呼ぶと、はろー、とユルい返事がして。
「なにしてんすか?」
「えー?ユーがまだいるかもしんないから寄ってけって」
「久しぶりっすね!」
「うん。元気ー?あれしょうちゃん髪伸びた」
「うす」
口をぱくぱくさせながら声を出さない花井の横に自然とは座り込む。
急いで駆けつけた店員にドリンクバー5つを注文した。ぶっちゃけノドは乾いてないし、そんなに長居する気もないが大人のルールの手前もあるので。
急に肩に感じるのぬくもり。花井はドキドキしながら必死に言葉を紡ぎ出す。
そういえば、恋人、としてみんなの前にこうやって現れるのは初めてだ。
「なっ・・・やまと、さん」
「んー?」
「あ、そうだ、へんじ!メールの返事は?」
「あ、ケータイ忘れた。家に」
「は!!??」
「めんご」
「ちょ、な、」
なんか、2人の関係がそれだけで見えたような気がして。笑いをこらえるのに必死なのは、もはや阿部だけではない。
「花井君、わたし、あたたかいこーしーが飲みたいわ」
にっこーと笑顔のに、花井がもちろん言い返せるわけもなく。ついでに頼まれた4人ぶんもなんでかしらないけど引き受けてしまった。
てめーら調子にのんじゃねーぞ。そう睨みをきかせてみても、効果は皆無と言っていい。
そんな花井の背中を面白がって見守っていたメンバーには再び満面の笑みを浮かべ、言った。
「で?」
「え?」
「どんなおかしな事きいたのかなー?場合によっちゃ・・・」
「「「「「ごめんなさい」」」」」
結局2時間、最初からのメンバーは5時間居座ったファミレスからようやく出て
別れを惜しみつつ、は駐車場に戻る。
見送りの権限を大いに発揮出来るのは花井だけで、本当に短い距離プラス後ろからじっくり視線を受けながらの横を歩く。
一歩一歩が惜しいようで。次はいつ会えますか、なんて聞いてしまいそうでいやだ。そんなのかっこ悪いことぐらい知っていた。
「さん」
「なんすかー?」
「ケータイ、もう忘れないで下さいよ」
「・・・メールくれたんだね」
「返事ねーの、結構しんどいっす」
可愛すぎる花井を抱きしめて持って帰りたい衝動をおさえて
は今日一番、100%の笑顔で花井を見上げた。
「ごめんね。もう忘れない」
「・・・お願いします」
家に帰ってそのメール見るのが楽しみだとかいうSっぽい発言は、控えておいて。
ひた走る帰路が、いつもより長い気がした。
高校生の恋愛事情。やっぱあたしには難しいわ。
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