多少の緊張があった事は認めるし、自分がの破天荒な性格を察しているつもりだった事も認める。
でも甘かったんだ。全部、全てにおいて俺の読みは甘かった。
待ち合わせに呼ばれた土曜の昼12時、ファミレスの前。
本当に不覚だが窓際席の店内から手を降っている金髪ボブにでっかいグラサンがさんだと気付くまで
花井梓は大層時間を要した。





























Thank-you Smoking.-----28

























見つけて気付いて口をパクパク動かす花井に、金髪女は自分の携帯を指指す。
ご丁寧に格好にあわせたのか、到底携帯のストラップと呼ぶには認め難いでかいぬいぐるみや花をこれでもかとつけている。
なんすかその無駄な張り切り。俺、理解できねーっす。
慌ててポケットから取り出した画面には「着信・」の文字。
「はろー」
「かっあっ・・・な!?」
「なーん、おしゃれじゃあん」
ニヤニヤ顔は見なくても手に取るように分かる。
そりゃそうでしょうとも、言われた通りですもの!
都合上家に押しかけて花井のタンスをひっかき回す事の出来なかったの写メだけのコーディネートにより
あのきく江が漂白剤で台無しにしたロンTまでかっこよく見えてしまう。
だが今それを「魔法みた〜い」などと称賛している余裕などは全く持って無い。
泣きそうな花井の横を、ガムをクチャクチャしながら若い男が通り過ぎて店内に入って行った。

花井は一瞬目を向けただけでまた携帯に戻る。
「ど、どうゆうアレなんスか!?」
「えーなにがあ?」
よっぽど店内に押しかけようかと思った矢先。先程の男4人がの席に座った。
まさかナンパ?もう足踏み出しちゃうぞ、まできた花井の前で
が携帯を一人の男に渡す。

わかりました神様。

「おーす」
「え!あ、阿部?」
「よぉ」
「なっな!?」
さんと俺と栄口と泉と浜田さんで、今日はお前ら監視すっからー」

わかりました神様。今日は俺で遊ぶんですね。

その妙に似合っている服に、正直怒る気も起こらない。
でもひとつだけ。それ、余計目立ちます・・・正直。
「く、車!そうだ、さん多分車見られてますよ!」
こんな田舎じゃファミリーカーかヤンキー車じゃないほうが目立つ。
現にほら、今駐車場にあるのだって・・・アレ?
「レンタカーって知ってるかい」
なぜだか目に飛び込んで来た、ひときわ綺麗なでかいファミリーカーが花井にほくそ笑んできた気がした。
・・・これだけは言うまいとしていたが。我慢ならね!我慢ならねぇ!

「無駄遣いばっかして!」

抱腹絶倒とはまさにこの事か。

もうママ知りませんからね!それを付け加えて欲しいと、腹筋の痛みをこらえながら監視組は願った。

5分遅れて来た田島と三橋と水谷に監視員の旨を伝えると、あわあわ言いながら店内に駆け出したので必死に止める。
誰に言っても信じてもらえないだろうが
不信感とかそこはかとない疑問とか死ぬ程あるのに
それでも「さんの記事の為」だと思えば、堪え難くは無い。
花井は意外とけなげな男だった。
「田島、絶対口すべらすなよ」
「わぁかってるよー」


たっぷり20分遅れて来た赤山にウンザリしながら、きちんとセットしてきたカメラから
それぞれ四分割のノイズ交じりの映像がの小さなノートパソコンに写し出される。
「すっげ、テレビみてぇ」
覗き込んだ浜田にニコリと笑ったは、つないだイヤホンを隣にいた栄口に渡す。
多少の雑音と共に聞こえてくるやりとりに、不謹慎ながらワクワクでニヤニヤがノンストッピング。
『やーお待たせ〜』
『あ・・・ども』
『やー花井君チョーおしゃれじゃん!』
リアルな会話だなあ、とは少し眉をひそめた。
話にはナンボか聞いてはいたが、ほんとにリアル女子高生だ。
清純な女子高生がまだ多数存在する事くらい知ってるつもりだった が・・・
『ってかアコ胸チョーあいてね?気合い入りすぎだし!』
『赤山だってモモ全開じゃあん』
なんか疑いたくなる。これが現実だなんて知ったら、世の中のお父さんは全員涙するに違いないだろう。
先程の会話に顔を少し赤くした栄口が無性に可愛くて
「もー!いいこ!」
「わっ」
は気のままギュッと抱きしめた。

ひととおりのどうでもいい自己紹介をしたあと、花井が空気を取り払うように切り出す。
赤山とさあやと、アコとムーミンと名乗った女性陣はさあや以外とても微妙なメンツだ。
この場合、顔で判断していることはやむなし。でも思うんだ、特にさんとかモモカンとか見てると
性格って顔に出る。
ムーミンって、それでいいのかと誰もが心で突っ込んだ。

『で?ど、どこ行くの?』
「どーでもいーけど、田島のカメラほんっと役に立ってないっすね」
花井の言葉を聞きながら、阿部の言葉通り、田島のカメラはさっきから位置がズレているのか真っ暗なまま。
「まあ借り物だから調子悪いのかも」
としては、4台のうちの1台くらいなら特に支障はないようだった。

とりあえず、隣町のボーリングに行くらしい事を知ると
携帯人員の泉が即座に水谷にメールを打つ。
(先回りしてっから)
(おっけー)
水谷の緊張感のカケラもない返事を目の当たりにして、そう言えばコレってただ遊びに行くだけだよなあと我に返った。
夜飲みに行くならまだしも。やっぱ高校生の合コンはこんなぐらいだろうなあと、安心なようなツマラナイような。

たっぷり合コン組との距離をおいて車を発進させると、助手席にいた泉がラジオから聞こえてくる音楽を口ずさむ。
持ってきたMDを、あげると渡すと大層喜んでくれたのでも微笑んだ。
「で、どうするんすか?」
「とりあえず3ゲームくらい?」



「とりあえず3ゲームくらいだねー」
何の相談も無しに勝手に手続きを始めた女の子たちに気後れした花井が、チラリと後ろを見て
鞄をあわや落としそうになった。
ゆっとくけど、超精密機械、弁償なんかやだからね。
そんなの声が脳内にこだまする。

キャッキャキャッキャと遠くのレーンでプレイを楽しんでいるのは・・・
「花井・・・あれって」
「なんも言うな・・・」
あっちに混りてェよ!そんな田島の切なる願いは花井も同じで
それでもけなげさを見せた花井が達より7つ離れたレーンにたどり着き上を見上げると
「あずさちーむ」
「ゆーくんちーむ」
「みじゅたにちーむ」
「れんれんちーむ」
たまたまトイレに通り掛かった阿部がソレを見て噴出し、速攻でレーンに戻り全員に報告する。
一瞬の間のあと、監視チームは腹を抱えて笑い転げた。
それを遠巻きに観ていた花井は、もう死にたくなることはこの際やむおえない。ご愁傷様花井君。

「花井くん?どしたの」
見下げると、さあやが花井を覗き込んでいた。
正直、この歳の女の子に至近距離で上目遣いでドキっとしないほうがおかしい。
ドキッだかギクッだかは分かったものじゃないが。
なるほど、赤山の話はほとんど信用ならないが、さあやが可愛いのは確かだった。
大きな黒目気味の瞳に長いマツゲ、薄っすらした化粧のピンクのチークが頬を彩る。
少し茶色い髪は上品にツヤツヤ光っていて、たぶんもとがこんな色なんだろうと思った。
「いや・・・なんでも」
「じゃあいいけど。あ、あたし同じチームなの、よろしくね」
「あー・・・はい」




「それより・・・」
レンレンもだけど、梓って、マズくないか?
阿部や栄口はハッとしたように遥か向こうのレーンを見やる。
盗聴器もいらないくらい大きな声で女子達は
「あずさくんがんばってぇー」
などと脳天気に騒いでいた。
一方の花井は、いくらなんでも母親ばりに女子にキツく言う事も出来ず
何やら煮え切らない表情でこの不毛なボーリング大会の第一投目を飾る。

調子ん乗ってんなあ、となんとなく思ってしまっただったが、性格悪過ぎのため口を謹んでみたりして。
まだ、装ってまで嫌われたくないとか、そんな感情もあったんだなあと場違いな感傷が脳を掠める。
そのくらい好きなんだよね。花井君もだけど、タカもコーちゃんもみんな。





さん、す、すごいねっ」
女子達が集団でトイレに立った、1ゲーム終了後2ゲーム目開始前。
いささか気を使いながら声をかけてきた三橋に花井が顔を上げる。
何のせいか不明だがやたらと汗をかいた花井の頑張りに関わらず、
さあやのおかげでゲームはボロボロ、あの水谷どころか三橋にまで負けてしまった。
当然天才田島様には勝てるハズも無い。
大体投げ方が両手でゴロンじゃ話にならないよなぁと花井はぼうっと思った。
ふっと振り返り目を細めると、の投球は既に終わっており
浜田が泉に非人道的なヤジを飛ばされ見事ガーターをキメこんでいる最中で。
「何が?」
そう聞き返すと、三橋は一層キョドりながら言葉を返した。
「だっ、さっきね、すごい・・・」
「あ、すっげーミラクルターキーとってたぜ!!」
あっそ、と田島に返して花井はゲンナリする。お前らなんでそんな余裕あんのとか、言いたい事は数々あったが口からは出てこない。
「んだよ花井〜俺だって我慢してんだぞ!」
「あ・・・・・・・・」
田島の発言にハッとなる。
が鞄に仕掛けた盗聴器やカメラを一字一句一場面とも逃さず汲み取ろうとしているかどうかは今見る限り全く疑問だが
自分もこの田島ですらの為になるならと決心してここにいるわけで。
「んでも面白い記事かけたら嬉しいよなー」
「う、ん!」
花井は珍しくニコッと笑い、まだ女子が帰ってこない事を願いつつ携帯を取り出す。
7レーン向こうのが、携帯を取り出した。

「見つかるよ〜」
「大丈夫っすよ」
「なに?問題発生?」
「いや・・・じゃなくて」
不思議そうな水谷と目があった。
「超面白い記事かけたら、ご褒美、くれますか?」

がニヤリと笑ったのが、見なくても分かるようでおかしい。

「なんでもしてあげる」


予想外のような予想の範疇のような言葉に顔を赤くした花井の耳に
の甘ったるくてやらしー響きが絡み付く。
なんてなんて?と身を乗り出した3人に花井は
「・・・メシおごるって」
と限定のご褒美を提案した。

なんでもしてあげるって
エロい事しか浮かばない自分って、最低なんだろうか。




「あずさクンすごいっ」
ストライクをとった花井に可愛らしい手を差し出してきたさあやに、一瞬出しかけた手が止まる。
手にタッチ?どうなんだろう。
を見るタイミングも分からず戸惑う花井を見て、さあやは今にも折れちゃいそうな手を出して指をからめてブンブン降った。
あっ。水谷が小さく小さく、それどうなのって疑問を一文字にして口にする。
花井の顔が赤くなる。無理はない、思春期の高校生で、さあやは可愛い。
あの空気で手を撥ね除けるとか、そうゆうのも変だって分かる。
チラリと見た向こうのは、煙草をふかしながら阿部にヤジを飛ばしていた。
なぜか自分がほっとしてしまう、ふみき16歳。カメラの存在なんか忘れているようだが
奇しくも彼のカバンだけはベストポジションを捕らえており ・・・全く報われない。
「セックス出来たら100万やるよ」
セックスってこれよりずっとしんどい事だよなあと思ってなんだか切なくて
何で自分がこんなんなってんだ、と気付いた。
「俺って意外と優しいのかな」
「み、水谷君は優しい、よ!」
期待してなかった返事は三橋がくれたので、少し笑えた。


香水なのかな。
ふんわりいい匂いがして、花井は目を瞑った。
さあやはそんな花井に気付いたのか、近過ぎるとも言える距離で目をパチクリさせる。
「あ、く、くさかった?」
「え?あ、いや?」
「今日初めてつけてみたんだけど・・・」
「あ、うん、いいんじゃない?」
「うん」
「・・・うん」

何この空気。花井、オマエ何やってんの。
気紛れにイヤホンをつけた、いや、つけてしまった阿部があまりの事に固まる。
「どした?」
後ろからヒョッコリ顔を出した栄口に、黙って阿部は片方を渡す。
「花井君が嫌いな匂いだったらどうしようかと思ったぁ」
「え?か、関係なくね?」
「あっ、あるよ・・・」
「へ、へー・・・」
慈愛を通り越して全てを右から左へ受け流すさながらブッダかなんかみたいに
石のようになった栄口の表情に反して、極めて近い位置からが本日5回目のストライクをキメた。

「な・・・何してんの花井!」
「いや・・・俺も同感」
「これマズくない?この会話マズくない?」
「・・・まぁ」
マズいっつか・・・やばいっす。

聞いているわけもないをチラリと見る。よし、大丈夫。
ほっと胸を撫で下ろした瞬間、パソコンのウィンドウがもう一つ、下に隠れているのを阿部は発見した。
またを見る。よし、タバコをうまそうにくゆらせているだけだ。
阿部が恐る恐るクリックすると、画面に小さく
「録音中」
の文字とともに赤いバーが極めてゆっくりしかし確実に左から右へと活動し、バッチリ仕事中だと親指すら立てた気がする。
はあ。
大きなため息が阿部と栄口を包み込んだ。



それから巻き返しを測った花井の検討空しく、最下位でボーリング大会の幕は下りる。
時刻は午後3時10分。
まだ淡い期待を捨て切れてない男性陣を尻目に
「じゃあカラオケいこー」
女性陣は次の提案を持ち出して来た。

こちらはワゴン車。よく聞き取れなかった音声に参ったは泉に指示を出す。
数秒後、水谷の携帯が震えた。

送信者:泉
件名:無題
本文:どこ行くの?

送信者:水谷
件名:Re:
本文:駅前のカラ館

それを聞いたは静かにタバコをもみ消した。



計算のうち。
早めに到着させて部屋番号を聞き出したは、フロントでこう言う。
「7階が良いんですけど」
ちょっと変な客だなと思った店員だったが、余裕もあった為ラッキーな事に同じ階、一つ挟んだ部屋をゲットできた理由はそれだ。


「花井くん、はい」
さあやは飲み物をかいがいしく花井に渡す。
「花井なんかひいきー」
KY田島の言葉にさあやは手をブンブン振った。
いやあ。勘違いかもだけど。
この子、花井の事狙ってんのかな。
イヤホンをつけた浜田がつばを飲んだが、生憎この状況でそれに気付いてなかったのは浜田と田島と三橋くらいのものだった。
でさえ気付いている。
でもやめられない。


そんな素直でも、仕事意欲ない訳でもない。





カラオケ大好き水谷ッコが流行のポップチューンを歌い終えると、まだまだとやけに悩んでいる赤山のせいで空気に隙間が生まれる。

そして聞こえて来たのは、懐かしい歌。
の声。
うわ、さん歌うっま。
反射的に花井を見ると、デンモクを押しまくるさあやの横で花井は 悦に浸っていた。
「ねぇ、この人チョーうまくない?」
ムーミンのその声に慌てて顔を上げる。
「こ、この人って?」
「えー今聞こえてんの」
田島がピンと来て、トイレに行くと出て行った。




「んー!」
がばっと入ってきた田島を抱き留める。
「ユー!何やってんの!?」
さすがに驚いたようで、目をパチクリさせたにスリスリ寄付く。
「田島テメェ、ちゃんと仕事しろや!」
「んだよ、自分はこっちでいーかもしんねーけどよぉ!」
確かに、と阿部は口をつぐむ。
確かにもし自分なら、カラオケどころかボーリングの途中で帰ってるかも。
全く、蚊帳の外でやいのやいの外野というのは楽しくて仕方ない。
「しんどくなった?」
そう頭を撫でたに気持ち良さそうな顔をしながら、田島は顔をあげた。
歌ってたろ?」
「え?あーうん」
「うまいな!歌」
「そー?」
苦笑するを見ながら阿部や栄口や泉や浜田は
なんかブリーダーみてぇ、とこれまたひどい事を思った。
こんなん花井が見たら・・・ハ!

ドアの小さな窓の向こうから複雑極まりない顔をした花井が見えてしまい
栄口は非常に同情すると共に、笑いをこらえるのに必死で。
「んじゃ今度みんなでカラオケいこ」
その提案に目をキラキラさせた田島は、とても良いお返事をして部屋を出て行った。
本来、田島が変な事をしでかさないか監視に来た花井とドアの外で鉢合わせする。
「あれー花井いたん」
「・・・お前なあ」
「なんだよお」
人の彼女に・・・って。そんなハズイ発言、できるわけねーだろコンチクショー。



「でもさん」
「ん?」
「歌うまいっすねマジ」
「・・・なんでそんな上げんの」

普段は全くそうじゃないけど
どうやら無意識にのご機嫌伺いをしてしまっていた事に気付いて。
「や・・・でも歌うまいのはマジっす」
素直に認めた泉の黒い髪を、はニコニコしながら撫でた。

「さあ歌え!若者の歌をさ!」
「ははは」



「はい、花井くん」
赤山のうまいんだか下手なんだか分からないアユの歌をBGMに、デンモクを渡してきたさあやに花井は手を翳す。
「いや、俺はいいや」
「え、歌わないの?」
「あーうん」
別にこれと言って歌いたい曲も無し、花井は観客に徹してさっきのの歌っていた歌を思い出そうと気をそらした瞬間。
「じゃあ、EXILE歌って!」
さあやは可愛いお願いをしてみせる。
「いや・・・知らない、ごめん」
「えー・・・じゃあミスチルは?」
眉をひそめながら考える。赤山の歌は終わって、田島が何故か三橋とドラゴンボールを歌い始めたところで。
「あー」
なんだっけ、前ちょっといいなと思って聞いた曲。
思い出してタイトルを告げると
「それ大好きっ!」
言うが早いかさあやはデンモクでピピッと曲を入れてしまった。

さあやの無難かつ安定感のある大塚愛の歌も終り
花井は仕方無しにマイクを握る。

そして気付いた。




君が好き
僕が生きる
上でこれ以上の意味は
無くたっていい






これってすごいラブソングだったんだ。

最高赤面モノで言わせてもらうが
俺さっきから



さんの顔しか浮かんでこねーんだけど。









































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