月曜日。露骨に赤山に無視をされ、花井はホッとしたのとなんだかよく分からない不安をダブルに感じる。
何だろ、この感じ。
それでも外はいつの間にか3月になっていて
卒業式が終わって、少したったら今月末から短い休みが始まって
そしたら自分は二年生になる。また、夏もやって来る。
さらさら花井を撫でる優しい風が異様にさわやかで
ああさんも今頃同じ風を・・・・などと気色悪い少年妄想を抱いたりしたがそうは問屋がおろさない。
あのドアのロックをかけなかった神様は、引き返にの体から熱を奪った。
Thank-you Smoking.-----32
昼間から夕方までの練習が終り、春休み初日に練習試合があると告げられ色めき立った。
熱覚め遣らぬまま部室に転がり込み、ロッカーを開けると携帯がペカペカ光っている。
少しの花井の期待を遥かに上回るように
着信履歴にはの文字が実に20件、一分とあかず並んでいた。
さすがにこれは異常だと思い、花井は場所も考えず通話ボタンを押す。
いつもなら聞き入るハズの待ちうたまでもどかしい。やっと聞こえてきたの声は・・・・
「はっ・・・・はないくっ」
エロ過ぎて勃起しそうになる。若いってバカだ。うんこだ。でも素直だ。
「ごべんね・・・・」
鼻声もたいがいにしろっつーくらい鼻声、花井の横には真っ赤な顔のが今にも泣き出しそうな顔で息を荒くしている。
「さん、風邪だって・・・・」
珍しく自分たちの前で電話してるなと思ったら、焦り始めた花井が電話を切った途端そう口走った。
来てないやつらだって二日前何があったかなんてとっくに把握済みで
濡れっ放しであんな恥ずかしい事自覚して、とにかく色々心当たりはありまくる。
「とにかく、俺ちょい行って来る」
そう言った花井に、水谷は慌ててポケットに手を突っ込んでそのグーを花井に突出した。
反射的に出した手の上に、音を立てて152円が落ちる。
「あ?」
「カンパ!なんか冷えピタとか買って!」
152円で冷えピタなんか売ってねーよ。心の中でそんなこと呟いたってどうしようもない。
そんな必死な水谷に、全員が慌てて俺も俺もと少ない小遣いの中から小銭を差し出す。
こんもり手のひらに盛られた小銭は、花井は数えなかったが1576円になっていた。
コンビニで、とりあえずポカリと冷えピタと、よく分からないし持ってなさそうだから700幾らのチープな体温計も買って、カンパは全部ふっとんだ。
自転車必死にこいでの家に着くと、死にそうなが何故かヨソ行きのカッコで現状を説明する。
今日があの記事の締切で、風邪だと行ったら編集者の一人がこんなヘンピなところまで原稿取りに来てくれると神的に優しい事を言ってくれた。
どう考えても郵送では間に合わない、素直にそのお言葉に甘える事にしたのは良いが、どうにもそいつが方向音痴で道が定まらない。
迷子の連絡をうけた場所が偶然知っていた喫茶店だったのでそこで待っていてくださいと言ったのは良いものの
いざ歩こうとしたらフラフラで一人ではたどり着けそうもない事が発覚。
そして今
花井の自転車の後ろに乗って、はあーだのうーだのと唸っている、というわけだ。
「大丈夫っすか?」
「だいじょーぶじゃねー」
ゴホゴホと言いながら、は花井のでかい背中にしがみつく。
申し訳ないが・・・・花井は今の状況をとても嬉しく感じていた。だってこんな時頼ってくれるなんて・・・なんか
「なんかさー」
「はい?」
「あたし、タガ外れたかも」
「え?」
静かに進む夕方の狭い道路。
はゆっくり口を開く。
「ゲロ吐いたとこ見られたらさあ、もうその相手には見栄張ってもカッコつけても無駄っつーか」
意味の分からないに、花井は眉を歪める。ゲロ?
そんな彼に降り注ぐのは、雨より飴より甘くときめく言葉。
「なんかさー・・・・あたし、花井君の事そーとー好きかもよおおお」
「は!?」
もうちょっと大人らしく、余裕ばりばりで、装って笑っていられると思っていたのに
あのザマだ。
あの時のと言ったら、まるで子供で駄々こねてるみたいで
本人に言わせれば情けないのと恥ずかしいのともうむちゃくちゃ認めがたいだろう。
でも
ケンちゃんの時だって、幼児みたいに泣きじゃくってたのを思い出して
花井は嬉しいのとちょっと複雑なのとでぐっと天を扇いだ。
「まー、そんくらい好かれていいんじゃないっすかね・・・・俺」
「う。何それ」
「割あわねーし」
「な?なにが?ワリって何よ?」
「さー」
「んだよおおおあああ!!」
「ははは」
そんなの自覚してもしょーがないっつの。
俺なんか、そんなん言われるたびに好きになってんのに。
いつまでたっても割なんか合うはずない。
「あー好き好き!もーすげー好き!」
「俺もすっげー好きですよ」
熱にのぼせてるせいかその日のは喫茶店までの15分を好きで埋め着くし
花井は抱え切れない程の好きに、涙が出るほど幸せを感じた。
スンナリ山城からOKをもらったがものの数分で喫茶店から出て来て
帰る道すがら、スーパーで花井は苺を1パックに買ってまた自転車をこいだ。
家についたら即効で
「うつるから一時間で帰って」
と言われ、残念だがうつりでもしたらそれこそに迷惑なので受け入れる。
花井がみんなからだと言って渡したぬるいポカリを、は嬉しそうに飲み
「つめたい」
そう笑いながら苺を食べて、優しい優しい花井に冷えピタを貼ってもらった。
思えば
この苺が花井がに一番初めに「おごった」もので
それに気づいてしまった花井は少しだけ赤くなりながら
クソ似合わない可愛らしい事実を、嬉しく思いじぃんと受け止める。
安っぽい体温計がいよいよの高い熱を伝えると、多分今日の夜が山場なんだろうなと予想もついたりして
別れ際、キスはダメだと言ったを抱きしめる。
いつもよりずっと熱い体温が、花井にうつってそのまま離さなかった。
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