卒業生代表が、少し涙ぐんでいるのが見えて
でもやっぱ他人事で、田島なんかハナから寝ちゃってるし。
卒業式はいつだって退屈で、在校生は、特に自分達なんか部活の先輩もいないもんだから余計にそんな感じで
ぼーっと、良い天気だなあと外を見る。
自分が卒業する時
自分は何を望んでいるんだろう。そんなふうに一瞬思いもしたが
揺れる阿部の頭を見ていたら
とりあえず、野球だなーって考えに落ち着いてしまって
らしくないが、自分まで眠くてしょうがない。
Thank-you Smoking.-----33
ショートホームルームも終り、今日は予定ではミーティングだけ。
こないだのゲーセンのリベンジに行くかどうかを離している泉の背中を見ながら歩く。
図書室に移動する途中、何故かが見えて声を出そうとしたが
そうゆうおいしいとこは田島が持ってっちゃって、花井は少し苦笑した。
「!」
「おー早いねぇ」
短い髪をわしわしなでると、顔を上げて花井に笑いかける。
「よっ」
「ども」
実は会うのはちょっと久しぶり。3週間くらい、練習やら仕事で・・・その間電話は2回だけしてみたりしたんだけど。
軽く会釈した花井に満足げ。ひさしぶりだね、そうですね、言葉にしなくてもふんわり漂ってくる。
「あれ?どうしたんスか?」
ひょい、と顔を出した阿部も小さく挨拶をする。
「チヨちゃん今日用事あるんだって。」
それは知ってるけど。同じクラスだし。
「んでねーこないだまりあに練習試合の事聞いてさ。スパイしてきた」
ニヤリと笑う片手にハンディカム。撮ったんかい。
「うおー見てー!」
テンションあがっちゃった田島と共に、は図書室のドアをあける。
「んじゃ揃ったら研究な!」
キャプテンの言葉に、皆がバラバラではあるがちゃんと返事をした。
ドタドタとテレビの前を陣取る野球部を、まるでモモカンかあるいはお母さんのように見ながら。
最後にドアをくぐった花井に、思い出した。
「あ」
「何すか」
「今日志賀先生もこないから。わたし、きょうは、かんとくなのよっ」
だから言うこと聞かないとひどいわよ。フザけてそう言ったに、花井は素直に笑った。
「変な顔しないで下さいって」
「今度猪木やってやるよ」
慣れた手つきでテレビに配線をつなぐと、再生ボタンを押したはいそいそと一番後ろの席に座る。
映し出されたのは―・・・
「練習風景じゃないっすか。」
せめて部内試合くらい見たかったと呟いてしまった泉には笑う。
「だって適当に行ったら普通に部活やってたんだもん」
当たり前の事を言われて、でもまあ無いよりマシだと目線をもどす。
「あ、こいつ結構足早いね」
「でもちょい反応悪い」
「球はー・・・・三橋より早いかな?」
「お、あ、ぅ」
「いやでも勝てるっしょー」
「ヨユー!」
やいのやいの交わし始めたメンバーたちを満足げに見ていたに、巣山が振り返る。
うーん、なんかほんとにお母さんっつーか、何?ホゴシャ?
「さん、どれがキャプテンっすか?」
の目が泳ぐ。え。
「・・・・さあ」
「は?」
「んなの見てれば分かるだろー!あたしにはわかんない!」
「俺らだってわかんねーっすよ!」
「んだよー!」
騒ぎ始めた途端視線を感じる。花井が振り向くと、図書委員の真面目な女の子が人差し指を口に当てていた。
「こら、うるせーぞ!」
慌てて注意した花井に、ぴたりと騒ぎは止む。
「ほらー怒られちゃったじゃんか」
「俺のせいっすか?」
「まあ、おとなしく・・・・」
と、栄口の眉が若干歪む。
「なに?」
不思議に思った西広が画面を見て、まったく同じように眉を歪める。
画面の中、一人の部員がこちらに手を振っていた。
「え?」
すると、画面が揺れる。撮影者は、このバカ撮影者は、どうやら手を振り返しているらしい。
「なに?」
「あー・・・・」
言葉を失ってあさっての方向を向いたの意に反して、手を振っている男の子はまた一人、一人と増えていく。
『なにとってるんスかー?』
『んでもないよー』
『俺のカーブ撮ってくれましたー?』
『あはは』
あははじゃねー!
全員が信じられないという顔でを見る。
「いやぁ・・・・逃げたら怪しまれるかなーと」
「・・・・いや、バレないように撮って下さいよ・・・・」
「ンー!」
男子校だからこんなのしょうがない、とキッパリ言い捨てた様に、う、とうなる。
それからもう、超ド級・が上につくほどさる男子校の生徒たちは散漫な練習を続けて
正直これじゃあ相手の実力なんか蚊ほども分からない。分かってたまるか。
「ぜんっぜんサンコーになんねー!!」
ぐわあ、とエビゾリになった田島に、がまじですいませんと頭を下げた。
「油売ってるだけじゃないっすか」
「いーやー・・・まじごめん」
こうして身になったんだかならなかったんだか、誰も判別できないまま午後2時でミーティングは終了。
腹が減って仕方ないのでファミレスだのなんだのと言っていたら、が車のキーを人差し指でクルクルまわしながら通りすがる。
「さん、これからどうするんですか?」
「え?あー・・・べつになんもないけど?」
「メシ一緒しませんか?」
すんなりを誘った阿部に、言われた本人はキョトンとしている。
そしてたっぷり3秒の間を置いて、いい、と笑った。
「たまには男の子どうしでのんびりやんなさいな」
たまにはって。俺ら、毎日おんなじ顔見てメシ食ってんですけど。ちょっとくらい潤してよ!ウワァン!
「なんでええええええ」
ゴネ始めた田島と水谷に笑いながら、は1人で廊下を歩いて行った。
「ちぇーっ」
「気ぃ使ってんじゃないの?さん」
ふと、栄口が花井を見上げる。ちょっと背ぇ伸びたんじゃないかなーと思ったりして。
「え、なんで?」
「いや・・・まあ、言うなれば浮気じゃん?」
は?とでかい声を上げた花井に、を見送った阿部が振り向く。
「浮気って?何が?」
「だからーっ、ちょ、必死んなんなよ!阿部なんとかして!」
「いやだから、何で?何が浮気?」
「もおおおおおおおお!!」
近い花井を手てブン、と追い払って。栄口は一呼吸おいて、俺の単なる予想だけど、と念を押した。
「だから、野球が本命でさんが浮気相手っていうかさー」
「は???」
もーほんっとうるさい。なんでそんな必死なワケさ。仮定だって言ってんのに、もー。
下駄箱に向かって歩き出す栄口に、花井は必死になんでなんでを連発する。
「あくまで、本命は野球なんだよ。野球が恋人」
「ちょ、俺はさん浮気相手みてーに扱って・・・」
「ちっがうよ。多分、さんがそうして欲しいの」
自分の靴を床に放った栄口が、呆れたように言うと花井が益々眉をゆがめた。
阿部があまりの面白さに笑いをこらえているが、そんな事にも気づけない。
「じゃあさあ、お前が野球やめてさんと毎日イッチャイチャしてさあ・・・そんなん嬉しい?もし自分だったら」
確かに―・・・栄口の意見は、これ以上ないほど的を得ていると思う。
口には出さない花井のソレを読み取ったように、靴紐を結んだユートピアが笑った。
「大事にして欲しいんだよ、野球とか、友達も」
それからみんなで入った安いラーメン屋で
もしがいなかったら、という話になった。
がいなかったら、それはそれで当たり前だが何も変わらなかっただろう。
毎日野球やって、モモカンに怒られたり褒められたりして
もしかしたら花井だって他の相手を好きになったりして、それこそ普通の高校生活になっていただろう。
でもだけど
件名:練習試合
本文:観にいくからね
今、がみんなの前にいてくれて、花井なんかは恋人にまでなっちゃった現状。
それがウソじゃなくて本当の現実だから
できれば慎重に、このスパイスを受け入れて笑ってられたらいいなと、思う。
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