お、なんか始まった。
座り込んでしまったにかまわず、演奏と試合がスタート。
さらさら流れる少しだけ冷たい風に、ああ、もうすぐ4月だなあなんてぼーっと考えたりして。
少年時代は短い。自分がそうだったみたいに、いや、自分以上に
あんなに部活とか頑張ってたら、チョッ早で終わってしまう。
そんな中で、2年生になるっていう記念すべき瞬間に立ちえるっつーのは・・・なんつーか
「・・・ハハオヤかよ」
だらりと首をもたげると、空がやっぱ青くて気持ちいい。

















Thank-you Smoking.-----36




























ちらりと後ろを見ると、ブラスバンドは只今もっぱら練習中。
んー、と考えては手をモジモジさせる。カバンに入れてあったアイスコーヒーを飲むと、しまった、と今度は頭を抱えた。
。ものすごーく、タバコが吸いたい。もんのすごーく吸いたい。だって、冬の凍える時期のタバコも最高だが
気持ちいい野外のタバコなんか、それと争えるくらい美味しい。
ずーーーっと前に部室で、しかも花井の前で吸ったくせに
やっぱ本当に本当に赤の他人の高校生の前でタバコを吸うとなるとさすがにためらう。
携帯灰皿もある。天気がいい、気持ちいい。それにつけてコーヒーまで飲んじゃって、もおおおおお。
考えないようにすればするほど吸いたくなっていくばっかりで・・・もー。
今まで禁煙なんか考えたこともないが、吸わなきゃこんな葛藤ないのになあーなんてぼやっと思ったら
また妙なとこで演奏が止まった。
「ん?」
なんとなく後ろを振り返る。
風にふわふわ揺れるスカートと髪の毛。険しい顔。

あ、さあやだ。
は一瞬固まった。








「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
さあやは戸惑うブラスバンド部に目もくれず、を見つけると思いつめたように近寄ってきた。
は何を言っていいのか分からない。さあやはしゃべらない。
約3人分の間をあけてぺたっとコンクリに座ったさあやと、今、はこうして、意味の分からない時を刻んでいる。
まさかこんなことになろーとはなあーやっべーまじやっべーっつーかなんかしゃべってよもたないよ間がもたないよ
うっわーチクショー煙草吸いたいああもう今年一番今タバコ吸いたいあああああああああああ
っつかなんで?今日学校休みだよね?まさか・・・そっか、練習試合、見に来てたんか。
・・・さんですよね」
「ひっ?」
ビクッと驚いたがさあやを見る。
さあやの目線は、はるか遠くの試合をずっと見ている。
「・・・はい」
「あたし、東さやです」
さあやって本名じゃなかったんだ・・・。どうでもいい事ばかりが頭を巡る。
なんとかこの危機を打開しようと、はいかにも縁起くさい笑いを聞かせて体制を少しだけ変えた。
というか、本当にヘタレで申し訳ないが・・・年下の女の子ほどどうしたらいいのか分からない存在は無い。と思う、
まったく、呆れた人生がうかがえるようだった。
「あ、なんで?なんであたしがだって分かっ・・・」
「見た事ありましたから・・・ファミレスで」
ふぁみれす!!きたよコレ!!あの日ね!!!あのファミレスね!!!
ああ、と意味不明の返事をして、もうどうしたらいいのか分からないはカバンをさぐる。
ふと指に触れたのは、2週間ほど前コンビニで両替したくて買った、未開封の苺ミルク味。
「あ、飴食べる?」
「・・・だいじょぶです」
「あのー・・・・」
タバコ吸ってもいいですかなんて聞けるわけねーだろフザけんなばーーか!!
「・・・・・練習試合、見に来たんですか?」
え?とまたさあやを見る。ひざを抱えて、じっと見つめる先には、きっと花井がいるんだろう。
女子高生って勇気あんなあ。

自分もそうだったのかなーなんて考えると、少しだけ何故か笑えてしまって。
は首を少し鳴らすと、風がまたふわっと顔を撫でる。
「んーまあ」
先ほどとはてんで違う反応に、さあやは少しだけ身を硬くした。
「・・・花井君」
「え?」
「花井君に聞いたんですか?」
「いや?あーあたし、あの監督の知り合いだからね」
まあそれだけで教えてくれるんですかって突っ込まれたら返す言葉もありゃしませんけど。
「・・・ちょっと聞いてもいいですか?」
「んー?」

「花井君の事、本気で好きなんですか」
ぶわり、強すぎる風が吹いて。
もう無意識でタバコをくわえていたのソレに火はつかなかった。







本気で好きなんですかって。
こないだマジで実感しちゃったばっかだよ・・・もしかして死ぬほど好きなのかもしれないっつー事をさ。

ちらりと横を見ると、さあやの大きな目はいつの間にか潤んでいて。


・・・さんは、遊びとかじゃないんですか?」
そんな期待タップリの質問に、ウソでも「うん」って言ってあげられたらとも思ったが
それじゃどうしようもないしなあ。
「遊びって」
「だって・・・そんな感じするし」
失礼な子だな・・・。少しだけ吹いてしまったにも、さあやは反応すらしない。
「遊べるほどモテませんよー」
もう一度タバコに火をつける。吸い込むと、この状況に反してくらくらと気持ちよい感覚が脳にはいってきた。
我慢したあとのタバコは違ぇなあー・・・とか、言えたら笑って・・・くれるわけないっつーの。
「うそですよ・・・野球部の男子、みんな教室でさんの話してるって」
「あはは。まー話す事ないんじゃん?」
実際そうだろうなあ、と思うとまたしても不謹慎に笑えてしまう。
そんながさあやにはよっぽど大人に見えたのか・・・彼女の手がぐっと握られた。

「私、花井君の事好きなんですけど」

「んー」

好きなんですけどと言われても。ぶっちゃけ、文字通り、はいそうですかとしか言えない。

さんより、好きだと思います」

「んー」

「同じ学年だし・・・ずっと一緒にいられると思います」

「んーーーー」
たとえそうだって言われても。
花井君がそっちのが幸せって言われても。
いや言われたらひくかもしんないけど。・・・・・・・・言われてないからなあ。

っつかズルいよなあ。ハッキリ「別れてください」って言ってくれたら嫌だのなんだのって跳ね除けられるのに
かわいい子はズルい。しかも涙のオプション付き。あー、こうゆう術はちょっと自分は持ってない。

こうゆう時ってどうするべきなんだろう。
あなた可愛いんだから他の男なんかいくらでもいるじゃないの?
花井君は私の事好きだって言ってるのよ?
あーなんかダサい。それはナシだな。
ニコチンにフワフワしながら、てんでいい答えなんか出てこない。

またしても沈黙が流れ始めると、先に耐え切れなかったのはさあやだったらしく。

「・・・好きなんです」

ぽたりと、乾いたコンクリに涙が吸い込まれる。
まるであの日の自分みたいだなと思ったら、少しだけ心がチクっとなった。

「・・・好きなんです、花井君のこと」

「・・・・うん」

「他の子は・・・トーセーに勝ったチームのキャプテンだからだろうけどっ・・・」

「・・・うん」

「あたしはほんとに・・・好きなの」

「・・・うん」




ちょっと分かった。
この子、多分始めて失恋したんだろうな。
きっとかわいいから、引く手あまたみたいに男の子はみんな彼女の事を好きになったんだろうな。
んで
花井君はそうじゃなかった。
たったそれだけ。でも、16やそこらの女の子じゃ・・・それがきっと世界の全てなんだろうな。

あたしは花井君がいるだけじゃ、死んじゃうんだよ、多分。
仕事して、お金かせがないとご飯も食べられない。そのために男の人と2人で密室で会ったりもする。エロスな事はしたことないけど。
生きていくためには、お金が、仕事がなきゃいけなくて・・・
ぶっちゃけた話、それって花井君がいなくても生きては行けるって事で。
でもこの子はそうじゃないんだよね。
頭ん中ぜーんぶ花井君で埋め尽くしちゃっても、それで生きて行けるんだもん。
言い方変えればそれって
花井君いないと、生きてる意味ないってことだよね。

「なんかー」

「・・・・」

「・・・ちょっとうらやましー・・・とか言ったら失礼か」


ここへ来てはじめてさあやが見た「花井君の彼女」の顔は
とても大人で、キレイで、優しかった。
タバコの匂いが鼻を掠める。

「・・・もーちょい嫌な大人じゃないと、あたししんどいんですけど」

「ははは。言うね」





演奏の間を割って聞こえてきたキレイなヒットの音がどっちのチームのだったかなんて分からない。
もうほんっと試合なんかこっからじゃ意味わかんなくて
つなぎにがあの「かわいいんだから他の男もいっぱいいるでしょうに」というダサさ絶頂のセリフを言ってみると
「それ一番むかつきます」と返された。
そっかそっか。そうだよね。いっぱい言われたんでしょーなあ。


あーーーーーーーーー

いい子だな。













ごめんね。

べつに花井君いなくても多分生きていけるけど
それじゃつまんな過ぎて。

ケンちゃんのときみたいに、いなくなっても新しい人好きになるかもしれない。
そんでまた幸せだなーって、笑って暮らせると思う。

でもさ
今この瞬間の花井君のこと・・・チョッ早で過ぎていく高校生の花井君のこと
一秒でも逃したくないとか・・・・言うのは、あんまり大げさすぎるかな。


























件名:無題
本文:もし花井君がいないと生きてけないって言ったらどうする?



試合終了後
勝ちましたのメールを送ろうとしたらそんなメッセージが来ていて、花井は何のことかサッパリで。


件名:さん
本文:らしくなさ過ぎて泣けますね。



それはどっちの意味なのかは、今んとこ、どっちだって良いな。

































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