「わ、ありがとうございますっ!」
「いやいやいいよ、どうせ捨てるモノだし」
百点満点スマイルまりあが礼を言って頭を下げると
事務所の社長は遠慮しがちに手を振って頭を上げさせた。
超、ギリギリセーフ。時刻は午後10時、明日は始業式。
まりあは目の前のロッカーをどっちゃり積んだトラックを見つめながら、携帯を取り出した。














Thank-you Smoking.-----39























「おっもいよ!」
「ぜんっぜん重くない!」
百枝のビル清掃会社のお得意さんが、4月に入ってロッカーを新しく新調した。
そして、前の古いロッカーが大量に余っている事実を百枝が知ったのが昨日で
手伝いにを呼び出したのが今日だったって事で。
心優し過ぎる現場の男性達が、これまた現場のトラックを貸してくれたのはいいが積み降ろしまで頼むわけにはいかず。
朝8時から呼び出されたは、すっぴんで眉間にシワを寄せながらタバコを吸っていた。
「こらっさぼってないで!」
「無理だよー二人でなんてー。誰か呼ぼうよー」
「うだうだ言ってないで!あ、部室禁煙だからね!」
「・・・・はい」
部室で、しかも花井の目の前でタバコを吸ったことがあるなんてもちろん言えるわけなく。は渋々立ち上がって、鉄の塊に手をついた。
「・・・・ねむい」
「・・・花井君までそんな顔して来たらぶっ殺すからね」
「う。・・・・・・・・・・夜には帰らせたってば」


とりあえず今のメンバーのロッカーを全部端に寄せて掃除機をかける。
かなり粗雑なやりかたではあるが、女二人ではこれが限界だ。というか充分無謀な計画だ。
何してんだ自分・・・・と、早くもタバコ吸いたくなった
学校のチャイムが聞こえる。
「始業式始まるね」
百枝の言葉に、は顔を上げて微笑む。
「2年生かあ」
はあ、とわざと聞こえるくらいでっかい溜息を漏らして。百枝はぱん、と手を叩いた。
「はい、彼女の顔しない!」
「え?してた?まじ?ハズッ」
途端焦り始めたにケタケタ笑った百枝は、ロッカーをかつぎに階段を下がり始める。
!はこぶよー」
「へーい」

やれやれ、とため息はついてみたけれど。野球部のメンバーがすげーって喜ぶ顔見るのもまた良しかな。





「なあ、部活紹介のさあ・・・・」
そう、これから晴れて2年生となった彼らには重大な指名があった。
始業式が終わって簡単なホームルームをやり過ごすと、校舎の外で交代で2名づつビラをまわす。
そんな事しなくても、入りたいヤツは勝手に来るんじゃないのかと百枝に言った阿部だったが
『自分じゃ来づらいシャイボーイがいるかもしれないでしょ?』
そんなふうに否定され、どうしようもないので去年と同じようなグラウンドの位置を描いたとんでもなく簡単なビラを作ったわけで。
同じクラスになった連中はそれぞれ慣れない作業に気が散り散り。
栄口なんか腹までちょっと痛くなってくる始末だったりして。まぁそんなの、百枝やには一切届かないのだが。



だーもう!汗かいたあ!!
Tシャツ着て来て良かった。は外の温度とは反比例にモワモワする体に嫌悪感を抱く。
百枝はと言うと、とりあえず練習試合に見学に来ていた輩にコッソリ入部希望かどうかをもう調査済みで
一応余分な、彼女の言うところの「シャイボーイ」のぶんを入れて8つのロッカーを強引に押し込んでそのサマに満足げ。
「これじゃ来年は2人で1コのロッカーかもね」
シャレにならない予想をして何故かケタケタ笑うに、とりあえずお礼を言った。
、いま何時?」
「んー?12時ちょーど」
じゃあそろそろ、2年生組がご飯食べて集まりだすかも。その百枝の呟きに、へたりこんでいたがガバッと起きる。
「もうクラス決まってんのか!」
「え?あーそうだね」
「うっわ、見に行こうかなークラス発表の掲示板」
「いや、どうせすぐ来るからあの子らに聞けば・・・・」
言いかけた百枝が見たのは、靴を履き始める。まぁ言い出したら聞かないし・・・ぶっちゃけもう頼みごとは済んでいるので制す理由もない。
バタバタと出て行ったを見送りながら、自分も準備のため部室を後にした。




ライク・ア・坂本龍馬かよ。そんなくらい目を細めたが、目の前の細かい字を手繰る。
えーっと・・・あ、あったあった。なになに?おー。
2年4組・・・阿部隆也に花井梓に巣山庄治、西広辰太郎、7組に泉孝介、栄口勇人、田島悠一郎・・・9組が沖一利に水谷文貴に三橋廉。
あ、ハマちゃんは9組なのね。今年はなんだか固まってるなあ。
わざとかな・・・。そんなくっだらないかつ極限にどうでもいい考えを抱いているの横を、制服を来た女の子が通り過ぎる。
そっか、まだ入学式だから制服着てる子も多いのか。そういえば自分もとりあえず制服で来たかもなあ。あーなつかしー。
これからの期待に胸いっぱい、笑顔の1年生をぼやーっと見ていると
「ねえ、部活決めた?」
「案内のチラシもらったよ」
そんな声が耳に届く。ああ、そうか。この校内のどっかで、野球部だってなんかやってるかもしれないのか。
ひやかしにいってやろー。そんなどうでもいい事をにやにやしながら考えて足を進めようとしたに、何かの感触。
足元を見ると、真新しいお財布が落ちていた。



拾い上げてみたってもちろん持ち主なんぞ分かるはずもない。うーん、と考える。
しっかしまたいいサイフですこと・・・今ドキの高校生ってゼータクだなあ。女の子のサイフってかんじするけど・・・ヴィヴィアン。
ここは職員室に届けに行くべきか。そう思い、とりあえず勧誘スペースであるだろう方向とは間逆に進む。
わざとサイフが見えるように持って歩いた彼女が、念のためもう一度振り返ると
さっきのあたりでキョロキョロとあたりを見回す、黒髪の男の子がいた。彼の頭に連動して、ふわふわと柔らかそうな髪が揺れている。
もしかしなくとも、多分鉄板であの子のものだろう。はすぐまた引き返し、後ろから声をかける。
「ねー、これ?」
振り向いた少年は・・・まるで子猫みたいに目をぱーっとひらいて、にっこー・・・っと笑った。
「わ!ありがとうございます!」
「いえいえ」
「あせった〜・・・良かったーあって」
「よかったねぇ」
なかなかかわいい子だなあ、とそんなふうに思った。それに、TシャツにGパンだが・・・どっちも特徴的で、そうか雑誌で見たんだと思い出す。
・・・お金持ちなのかしら。まあ私服校だし、最初にキバる気持ちも分かるけどね。
最近の子ってゼイタクなんだな・・・まじで。
「ほんっとありがとうございます!」
「いいよー拾っただけだし。じゃね」
じゃあ冷やかしにでもいきますかね。そうやって足を進めようとしたに、ニャン、と言葉が噛み付いてくる。
「あの、何年生ですか?」
「・・・・・・・・・・・・」
うっわー、まだ高校生に見える?いやいやムリだろー。ものの0、数秒で自分に迅速かつ的確に突っ込みを入れた
ニヤニヤ笑いで眉をピョコっと上げた。
「生徒じゃないよ」
「え?じゃあ・・・先生?」
「ははっ。ないない」
「え?じゃあ・・・」

「まぁこれから頑張ってね、後輩」

手をひらひらさせながら後ろを向いた、薄い布に覆われている小さな背中がステキで
そっと溜息をついて、サイフを握り締めた。




「あっちー。もー早くグラウンド行きてぇー」
空を仰いだ田島に、さんさんと太陽の光が照りつけられる。
枚数のノルマこそ無いが、一応30分交代制度を設けて―・・・まだ10分も経っていない。
「やきゅーぶでーす。やきゅーぶです!」
そう言いながら手際よくチラシを渡していく栄口に、田島は何かひらめいたように目を大きくさせる。大体コレがあるとロクな事になり過ぎるかてんでダメか
田島という男は、そうゆう部類の人種だ。
「栄口、勝負しね?」
「え?なんの?」
「いまから20分、多く配ったモンの勝ち!」
「・・・何かける?」
「アイス!」
「乗った」
「じゃあプラスでファミレスのドリンクバー」
明らかに高くなった声に振り向いた2人が見たのは、今にもオヘソの見えそうな小さなTシャツを着て笑っている・・・
!」
さんっ」
「よー」
のん気に手を挙げると、お決まり、定番?田島ががばっと抱きついてきた。
「んー♪なになに、来てたの?」
「ちょっとひやかしに」
「手伝ってくれるんスか?」
「えー・・・やだあ」
自分で言ったことがよっぽど可笑しかったのか、ケタケタ笑い始めたに自然と顔がほころぶ。
ふと、2人の抱えているプラス後ろにもっさり置いてあるチラシに目が行った。
「・・・これ2人で配るの?」
「まさか。あと20分くらいで交代来るんすよ」
「へー。あ、邪魔してんね。さあ配った配った」
はいはい、と背中を押された2人が見たのは、後ろの花壇の狭いフチに腰を下ろしてニヤつく
ー手伝ってぇ」
「てつだわなーい。部員じゃないすぃ」
「けちー」
「どーもー」
チラシを差し出したままブーブー文句を垂れていた田島の手から、ふと感触が無くなる。
ん?と前を見ると、黒髪の男の子がチラシを持って・・・・顔を上げたと思ったら目の前の田島ではなく何故か後ろのに手を振った。
こっちはと言うと、一瞬の間をあけてスマイルで手を振り返している。
さん・・・知り合いっすか?」
「ん?あーさっきお財布拾ったの、あの子の」
「あー・・・」
まぁそれなら。妙にどこかつっかえたモノを感じながら、田島にさっきのノーカンだと告げるときっぱりと拒否される栄口だった。
その後、交代が来るのを待たずはまるでモンシロチョウみたいにフワフワいなくなっていて
ユニフォームのまま阿部と花井にが来ていた事を告げると、さっきグラウンドのほうに行くのを見た、といわれた。


気持ちよすぎる快晴の日。
まりあはとりあえず春休みから話をつけていた新入生5人を見ながら、ゾクゾクする。
いいなっいいな。10人でも気持ちよかったけど、やっぱ新しい子たちが入ってくるとまた違った活気がある。
ふう、といい溜息をついた百枝の後ろから、ひかえめに声が聞こえた。
「あのー・・・」
「はい??」
途端に目が輝きはじめた百枝に、びくっと小さな肩を震わせる男の子。
「まさか、入部希望?」
手にはチラシ。よかった〜チラシ配らせて!
「あ、はい」
「1年生よね?希望ポジションは?」
「なんでもできますよ」
自信満々でそう答えた彼に、百枝はごくっとツバを飲む。だって、さっきまで子猫みたいだったのに・・・
なんだか豹みたいな目になるんだもん。
「そっか!とりあえずー・・・名前は?」

「相模リョウです」
「サガミ君ね!」



あーさんまだいるかなー。
散漫な花井をヨソに、グラウンドでは百枝が相模の事を紹介し始めた。
彼女でいうところの「シャイボーイ」の目線の先には
グラウンドのはるか遠くのフェンスの先で、携帯をいじりながらタバコを吸っている小さな背中。

そんでもってあれは俺の彼女だから。
花井がそんなキャラだったら、たぶん、と付き合うことはなかっただろう。





































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