えー、絶対アツシ君のほうがいいよ!なんで、タニグチ君のほうがかっこいいじゃん!
何の話をしてるのかと見ていたら、きく江が「なんか2人してハマってるマンガがあるのよ」と教えてくれた。
どうせ優柔不断なヒロインが、イケメン2人に好きになられてどっちがいいのかもう自分じゃ選べないよ・・・とか抜かしてんだろ。
読まなくても分かるっるーの。あー、実際そんなんねーよ。
ケッと笑ってはみたものの、の顔を思い浮かべる。
もし野球部の中の誰かがさんに本気だったらどうするよ?一瞬よぎった考えは
甘い言葉とセックスの記憶だけで、見事にチリとなって花井の中から消え去った。
さんが俺がさん好きなくらい俺の事好きじゃなくても
今は充分。俺の彼女ってカタガキ持ってくれてるだけで、今はもー腹いっぱい。
「・・・お兄ちゃん?」
「・・・・は?」
ちゃんの事考えるのも良いけど、しっかりしてよね」
うっせ!っつか、いつからアナタそれちゃん付けで呼んでるんスかね!













Thank-you Smoking.-----40



























新入生は6名。百枝としては不服極まりないらしいが、正直な話、10人だった頃とは大分違う。
背の違うロッカーにきれいになった部室に驚いたのもつかの間、ぶっちゃけむっさい男16人もがこの部屋で一斉に着替えたりなんかしたら
それこそもー、ほんっと男くさい。汗くさい。むさい。
1日2日めまではまだ恐縮を隠し切れなかった1年生たちも、3日と過ぎる頃にはまだ同学年同士であるにはしろ
なかなか馴れ合ってきたらしく、会話もそこそこに弾んでいたりして。
「あ、キャプテン」
そんなふうに年下の子から声をかけられるのは中学ぶりで、なんだかくすぐったい。
「んじゃ10分後、練習開始な!」
「はい!」
2年生組のはーいやらほーいやらといった気の抜けた返事とはてんで違う気持ち良い返事もすがすがしい。
外は生憎曇り空で、来月からまたGW合宿が決定したようで
めまぐるしく駆け抜けていく4月をやり過ごすハメになりそうな花井に
相模がまるで路上で出会った全く人見知りのないネコのようについてくる。
「着替えはえーな」
「へへっ俺着替えんの早いんス!」
ほんっとにかわいい顔で、なんつーか、ジャニ系ってこうゆうのを言うんだろうな。
さぞかしクラスでもモテんだろーなーこいつ。そう目の前を向くと、さっそくフェンスの向こうに知らない女の子が3人。
「りょおー!」
「・・・知り合い?」
「あ・・・名前なんだっけ。クラスの女子っす」
すいません、今帰らせますんで。そうぺこっと頭を下げて3人に駆け寄ってものの数十秒。
えー、と声が聞こえて、若干大きな相模の声が聞こえる。
「だぁから、邪魔になんだろ!」
「応援しに来たんだよー?」
「そおだよ−」
「じゃあせめて見てるだけにしてよ。声出されたら集中できないじゃん」
ぽん、と肩を叩かれて振り返ると西広がいて。
「いやー、なかなかやるねえ」
そんな事を言われ、花井は少し笑った。
「フツー調子ん乗っちゃうモンだけど」
「まーな」
いやはやなかなかよく出来たシャイボーイだと、年長組2人は首をタテに振るのだった。




相模の「なんでもできますよ」はまんざらウソじゃなかった。
打つのも走るもの、内野も外野もうまいことこなしている。とびぬけてどこが、というわけではないが
全ポジションをこなせる才能は買える。それはイコールで、誰かがどうかなっても代わりがいるってこと。
「あ、次こっちから打っていいですか?」
オマケにスイッチヒッターときたもんで。泉はぼんやり見ていたが、これが自分だったらと思うと三橋なんかは震え上がった。
「相模君、ピッチャーは出来る?」
いよいよ三橋が変な汁でも出しそうになったとき、相模はかわいい顔を苦笑させて
「投げるのだけはダメなんです」
と小さく頭を下げ、三橋は予想道理頭を上げて歩ける状況になったり。
他4名井上、桜、瀬良、矢倉も中学では野球経験があり、サマになるとまではいかなくてもなんとかなりそう。
九条は西広と同じ陸上部だったそうで、野球はズブの素人だがボディーバランスには目を見張るものがある。
ふうう、と溜息をついた百枝に
マヌケな声が聞こえてくる。
「まりあ〜んぬ」
「・・・・
バカな呼び方すんな、と怖い顔をしてみせると、様はケタケタ笑うばかり。
の存在に一番に気づいた九条が「ちーっす」と言うと、1年は全員揃って帽子を脱いでみせた。
「ちーっす。ってかそんなんイラナイから」
笑いながら指差す方向、打席待ちの田島が笑顔で「ー!」と手を振っている。
「あんな感じでだいじょぶよ」
手を振り替えしながら笑うに、正直見惚れてしまう。
最初に百枝を見たときだって、ちょっと怖そうだけどキレイな人だなーと思った。
入学式の日、私服で冷やかしに来た(本人談)を見たとき、あーかわいい人だなって思って・・・
美人だなって思って、最終的にいい顔をしている人だと結論に辿り付く。
こんな人がお姉さんだったらいいのに。そんな理想系が目の前にいるようで、なんだかムズムズする。

「なに、邪魔しに来たの。ていうか最近アンタ暇なんじゃないの?」
「う」
そうなのだ。とりたてて大きな仕事も入ってこないし、現在進行中の原稿は限りなくゼロに近い。
このまま食いっぱぐれたらまりあが養ってね、と冗談めかして言うと
あんたとだけは一緒に住みたくない、とニヤっと笑われた。
「チヨちゃーん、なんか手伝うー」
「あ、さん!ありがとうございます」
そう言いながらクーラーを持ち上げるに、1年生は若干の緊張。
私語の先手を切ったのは井上だった。
さんって、監督と同い年なんだよね?」
乗っかってきた桜が、バッドのグリップの調子を確かめる。
「見えないよなー」
「俺最初マネジかと思ったもん」
俺らも最初はそうだったよ。たった3ヶ月弱前のことなのに、初対面のあの日をまるで昔のように思い返す。
うんうんとまたしても納得してしまっている水谷を越えて
「私語もそのぐらいにしろよ1年生!」
花井がキッパリそう言うもんだから、なんだか自分まで怒られた気持ちがして文貴は頭を掻いた。



「でええ?マジかい?」
練習終わり、今日はもコンビニについてくるらしく、心なしか急いで着替えを始めたメンバーに降り注ぐ驚きの声。
全員が振り返ると、もう腕時計をしながらの相模がぱちん、と音を立てた。
「ちょ、そんなおっきい声で・・・」
「いやいや・・・」
「なになに?」
水谷が声をかけると、まだ目を見開いたままの瀬良が振り返った。
「こいつ、中学ん時10コ上と付き合うてたんですって」
「え?まじで?」
「もー、みんなに言わなくてもいいじゃん・・・」
負けた。勝ち負けじゃないとかそんな言葉聴きたくない・・・負けた!!!!
水谷は肩を落とし、フルフルと手を震わせて阿部に助けを求める。うぜーな、と一括され、もっとなきそうになる。
「なになに?そんなんどこで知り合ったの?」
「いやだからー・・・渋谷行ったら逆ナンされて。俺も盛りだったし・・・もーやめよ、この話」
複雑な顔でぱたぱたと手で空気を散らして、一番に着替え終わった相模は部室を後にする。
そんな背中を見守りながら、部員は無言。
盛りだったってなあ・・・俺ら毎日彼女にもできねーグラビアアイドルでオナニーしてるっつーの!なにさ!!
「・・・おまえら、空気わりーよ」
どんより曇った空気に呆れ気味の花井。水谷はぐっと涙を飲んでつっかかった。
「お前はさんがいるからいいかもしんねーけどなあ!!」
「あーもー、はいはい」
「畜生!」



あ、子猫が寄ってきた。口には出さないが、車にもたれてタバコをふかしていたは車内の灰皿で火を消す。
さんっ」
「相模君、はやいねー着替え」
「俺着替え早いんスよ!」
ニコニコ笑う顔が、なんともかわいらしくて自然に自分まで笑ってしまう。
「みんなでコンビニ寄るんスよね?」
「そーそー、日課みたいよ。相模君はおうちどこ?」
「コンビニとは逆っすけど、俺も行きますよ!」
だって先輩たちもいるし!ですって、かーわうぃー。
「どうよ、先輩たちは?」
「いや、みんなかっこいーっす!」
「あはは、そっかそっか」
「あのー・・・さん」
「ん?」
「俺も呼び捨てで呼んでくれませんか?」
突然の申し出に、はキョトンとする。だが大して気にも留めず・・・いや、この時少しでも留めておけば・・・かわんないか。
きっと、ユーとかフミキとかタカとか呼んでるのを見て羨ましくなっちゃったんだろう。うんうん、カワイイカワイイ。
「リョウだっけ?した」
「はい!」
「昔あだ名とかなかったの?」
その瞬間、ぶらつかせていた腕を、きゅっと握られて。
「リョウでいいっす」
そう笑った顔に・・・は怯むこともなく、じゃあリョウね、と笑う。
一瞬で手を離したリョウは、へへっと得意の笑顔を見せて、も負けじとニヤニヤの得意顔。

みんなの声が駐輪場裏からわらわら聞こえてきて、が顔を上げたとき、何の気なしに聞いてみた。
「リョウ、身長何センチ?」
その答えをはぐらかすように先輩、と手を振った彼に
少し違和感を感じただったが
次の瞬間かかってきた待望の仕事依頼電話に、どれどころではなくなった。


ちなみに
次会った瞬間なぜかは「リョーちん」と呼んでいて
じゃあリョウね、ってなんだったんだろーって、ちょっとしんみり。


























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