明日学校休みで、なおかつ部活までお休みなのですよさん!!
そんな期待めいっぱい夢いっぱいな言葉を
件名:明日
本文:ヒマないですか?
そんなメールにひかえめにしたためてみたりしたんだけど、返ってきたのはこんな返事。
件名:明日は
本文:用事があるの。
しょーーーーがないよね!しょおおおがないさね!!!
納得しろ花井梓!悶えるな!悲しむな!!残念がるなっつーの俺!!
Thank-you Smoking.-----42
休みの日でも朝に目が覚めてしまう真面目なクセ。
無理やり8時に二度寝して、次に起きて時計を見ると10時になっていて
なぜか双子のやかましい足音にイラッとしつつ、階段をだらだら降りて見たものは―・・・
いつもよりオシャレマダムになった母と、いつもより格段にオシャレ(裏原系っていうのか?)になった双子と
いつものように、Tシャツにスキニージーンズのだった。
ズルウゥウウ!!ひっ転びそうになった花井に、きく江があらおはようと笑いかけてくる。
「な、ちょ、さん!!??」
「おー起きた?おねぼーさんっ」
ニカッと笑うワザとらしい顔に、金魚の口パクパクで返事。このパターンはいつになったら終わるのか。
「何してるんすか?え?」
「それより見てお兄ちゃん、ちゃんがコーディネートしてくれたんだけど」
「きく江さんスタイルいーですよね」
ああ道理で・・・って知るか!そんなん知るか!今それどころじゃナッスィング!!!何褒めてんのさん!
のん気に出された紅茶のカップを片手に、はカックカクの花井の傍に立つ。
「はやく着替えてこないと置いてっちゃうよ」
「はい!!??」
っつか用事って・・・まさかこのなんか嫌な予感しかないこれから始まる「何か」??ヒィ。
事の発端はに届いた一通のダイレクトメール「ファミリーセールのお知らせ」。
アパレル企業が1年に何度か開催するもので
そこでは広い敷地を借りて、会社で出た在庫やサンプル品、また些細な糸のほつれやボタンの違いなどからの
いわゆる「B級品」と呼ばれるものを、原価の3〜9割引きで、お得意様や会社の家族、関係者などのみが参加権利を持つ。
そしてたまたまこないだ取材で仲良くなった人がそこの倉庫管理をやっていて、に「よかったら」とハガキを送ってくれた。
そんなあらすじを花井家自慢の車で聞きながら、花井は助手席・・・ではなく、その真後ろに座っている。
「夢みたい!A/Sac(エーセカンズ)の服が買えるとか!」
「ねー!もー貯金全部おろしたし!」
何がそんなにすごいんだか、女だらけの車内で花井は1人浮きまくっている。
どうやら都内まで出るらしく時間は2時間半はかかりそう。
いっそ眠ってしまいたかったが、テンション上がりっぱなしの母や双子プラスでの運転で
眠れるわけもなく、頼りないお財布も不安を駆り立てる。
「・・・・あー・・・」
一言だけそう発したが、そんなもん聞こえるハズも聞いてもらえるハズもなく。フワフワとどこかへ消えていく。
県境を越えて1時間と少し。やっと車が停車して、ついた先は東京ビックサイトだった。
でか!!ひろ!!!そんでもってすっげー人。
なぜかと腕を組んだきく江に、ちょっとお前やりすぎじゃねーのとか思いながら見失わないように足を進める。
花井は微塵も知らなかったが、A/sacとはとんでもないブランドらしく、自社だけで13個の対象別ブランドを持つらしい。
が先頭でDMを見せスンナリ入ると、でっかいでっかい案内パンフレットをもらい
でっかいでっかい世界に、所せましとブースがひしめきあっている。
俺は思ったね。ここで1日潰せるんじゃないかって。いや間違えた。潰れるんじゃないかって。
「あ!セカンズガールのブースある!!」
そう言うが早いかピュっと走り出したあすかとはるかに、母親は「じゃああとでね!」と念を押す。
「でもすごい人ねえ・・・何が何だか」
ふう、と楽しげな顔で溜息をついたきく江にはニコっと笑うと、パラパラと分厚いパンフレットをめくって
「きく江さんの好きなの、向こうみたいですよ」
いきましょっか、と掴まれている腕にある手をギュッと握る。
花井梓気づきました。俺、母親をこんなに羨ましいと思ったことはありません。チクショー!
キョロキョロ見回しながら、デパートのセールが戦場だなんて本当だったんだな、と少年はしみじみ感じる。
服の山には「それって彼氏に見せたことあります?」みたいな顔をした女の人たちが
我が我がと服を取り合っている。すっげー・・・こえー。
と母を見失わないように歩いていた花井の目の前、さっきまで人の足を踏まないのがやっとだったのに
急にエレガントなブースが広がって、内装はいささか高級ブティックのような雰囲気で。
え?と思って顔を前に戻すと、スーツを着た若いイケメンの店員が服を見ながらのきく江とと話していた。
「夏物のワンピースももう出てますよきく江さん」
「あらあ・・・」
「そちら今年の最新作で、サンプルの時点で除外されてますんで世界に1点だけの色ですよ」
ハンガーを手に取り、ごく自然にきく江にそのワンピースをあててみせる。
クリーム色の小花柄。ハッキリ言って母親のそうゆう服装は一度も見た事が無い。
「これいい!きく江さん超似合う」
「え?そう?そうかしら?」
なんか見たくもなかった母親の乙女性に、花井梓は心底戸惑う。
っつかここにいるのって完全場違いじゃん俺。あー・・・どっかいこっかなあ。
手持ち無沙汰で一番近くにあったスカートの値札を見てみると
9割引シールの横に、9800円と書かれている。女の人の服ってたっけーなあ・・・え?
9割引で9800円??ってことは元98000円もすんの??こんなウッスィーただのスカートが!!!???
ああああありえねえ!!!なんじゃそりゃああ!!!そら買うわ!そらトキメクわいな!!
頭をポリ、と掻いたお花畑の花井には上に広がるシャンデリアまでなんだか威圧してくるようで・・・正直まじで居づらい。
んー、とまたパンフレットを広げると、ふっと影が落ちて・・・タバコのかすかな匂いが広がってくる。
「どっか行く?」
何故かドキッとして顔を上げると、がニコニコ顔を覗き込んでいた。
「え?あー・・・いいんスか?」
ほっといても、と指差した母親は、もう乙女モードロマンティック全開。目をキラッキラさせて
これもいいわあれもいいわああどうしましょうと幸せに苦悩しており
先ほどの店員と、もう1人、くらいのおねえさんの店員がお相手に勤しんでいるようで・・・
まあ相当時間がかかりそうかもしれんな、と薄々ながらに高校生男子にも分かる。
「向こうにねえ、メンズのもあるんだよ」
そう言ったは、店員に軽く目配せをしたかと思うと花井のTシャツのスソをきゅっと引っ張った。
うん、似合う。トン、と当たる手の甲を、自分の手で包んでギュってしたいのをこらえる。
は花井に次から次へとTシャツやジャケットを当てては、いいねいいねを繰り返していて・・・
”プロジェクトセカンズ”は20〜30代の男性がターゲットなんだよ、とさっき教えてもらって
やっぱ若い女の子の場所とは違って、ここも静かなセレクトショップといった雰囲気だ。
しかしまわりにいるのはどれもオシャレなメンズばかり。正直、Tシャツで来てしまったことを非常に後悔したのだが
どんなに頑張っても、きっと自分のタンスにある服じゃ太刀打ちできないだろう。
そう思いながら、楽しそうに服を選り好むに目を向ける。
Tシャツにただのスキニージーンズ。腕時計とケツポケットにサイフと携帯。
たったそれだけなのに・・・やっぱは全然違う。
ずっと前ユニクロのCMを見て、オシャレって存在の問題なんだって気づいたのをふと思い出した。
結局、かっこいい人ってTシャツにGパンで完璧オシャレに見えちゃう。
存在感の問題なんだよ。だからさんはこんな場所にそんなかっこでも、なんかステキなんだ。
ちょっと羨ましい、と感じた矢先、ふと目の前のが溜息をつく。
「え?」
「え?あー・・・やっぱ花井君何着てもサマんなっちゃうんだよねえ」
だから選ぶの難しい。
そう本気で眉間にシワを作っているこの人が、本当に自分の彼女なんだって
なんだってこの人はもういちいちいちいち・・・・幸せ突きつけて、俺の事虜にすんだ。もー・・・ほんっと許せねー。
途端、ぎゅっと手を握られて、は驚いて顔を上げる。
「なに?」
「いやーもー・・・なんもいらないっす」
「ええ??いや、せっかくだから一着くらい買わないともったいないよ?」
そーじゃないっす。もー、ぜんっぜんそーじゃないっす。
「俺一生ニシウラのユニフォームでもいいっす」
「はあ?」
さんが彼女で、俺の事好きって笑ってくれるんだったら
俺本気、オシャレなんかどうでもいい。ここにいるイケメン全員に、100対ゼロのコールド勝ちなんですよ、もう。
結局、5割引で7000円という花井にとっては高価極まりないTシャツを1枚、からプレゼントされた。
あなたにもらった服はこれで3着目。
どうにも、お返しがしたくてたまらない。
♪ぽーけっとの中にはせーんえんが3枚。ぽーけっとをたったっくとーせーんえんはー・・・増えろよボケがああああ!!!
アホほど紙袋を抱えて集合した母と双子を見て、は満足そうに笑って花井はちょっとひいていた。
さて帰りますか空気の花井に、なぜかその紙袋は次々に渡され、はチラリと時計を確認する。
「じゃあシメ行きますか」
「いきましょいきましょ♪」
「おかーさんちょっとさんから離れてよぉ」
「そーだよ」
「あはは」
女性陣、16歳の少年をほったらかしにしてまた人ごみの中へ消えていく。
「は?はあ??」
ポツンと残された背の高い花井がこれほど小さく見えることもそうないだろう。
状況がてんで読めない彼の為のように、館内にアナウンスが流れる。
『只今よりー特設ブースにおきましてー”セカンズラバー”セールを行います。
全品9割引となっておりますので、ご来場の皆様はぜひご覧下さい』
ああこれね。目の前の雑踏が一斉に同じ方向に向いていくサマを見ながら、花井は絶望にも似た何かを感じて荷物の重さをドッと体感した。
はるか向こうから、ぎゃあぎゃあととんでもない声が聞こえてくる。
何分かかるのかも分からない。ここで待ってるのもなあ・・・っつか荷物重いよ。
そういえば来る途中、いっこ上の階にカフェがあったのを思い出し、そこで待っていようかと足を踏み出した瞬間
ふと目に止まったブース。中にはめいっぱいのアクセサリーが並んでいて・・・見るだけなら、と花井はそちらに歩み寄った。
スワロフスキーっていうのか。へえ。
指輪にブローチにネックレスに置物。その全てが七色に輝いており、花井は目がくらみそうになる。
そして値札を見て、また目がくらみそう。9割引って3万円ってそれ原価いくらだよ・・・。
はいはい、とずこずこ退散しそうになった花井を引き止めたのは
自分より少し背の高い、メガネの男だった。
「やーもー分かってたことなんだけどさ、暇でヒマでさあ」
カッカッカ、と顔に似合わず豪快に笑う男に、花井はちょっと妙なのに捕まっちゃったかと若干後悔の色を纏う。
そんな花井に気づいたのか、スサキと名乗った男はニンマリ笑った。
「彼女にプレゼント?」
「え?あっ・・・は?」
顔を真っ赤にした花井に、スサキはそれが彼の気質なのか、初対面の赤の他人とは思えない程フレンドリーに近寄ってきた。
「彼女どんな人なの?選んであげるよ」
「え?いや・・・いいっすよそんなん!」
「なんでー、せっかくお母さんもお姉ちゃんも妹さんもいないんだからさ」
ブースの前でのやりとりを見られていたようで・・・ここ、もしかしてずっとヒマだったのかなーと変な推測をして
あれ?姉ちゃんなんかウチいたっけ?っと思い、花井はまた顔を赤くした。
「え?何、なんでテレんの?オジサン変な事言った?」
「いや・・・あの」
「まぁいいじゃん。どんな人なのよ」
どんな人って・・・どうなんだろう。
「ほ・・・ほそくて」
「ふむふむー?」
「性格ムチャクチャで・・・大人でー・・・」
「でもかわいくてステキで最高?あー分かった分かった」
そんな事言ってないでしょうよ!!アウアウと口を動かす年下の男の子がかわいくて、スサキは笑いながら店内を見回す。
「少年、所持金は?」
間もあけずグザッとくる質問をされ、花井はもう色んな意味でゲームオーバーだ。しんじゃいたい!
「さ・・・んぜんえん」
「三千円かあー」
また笑われんのかと身構えていたのに、スサキは至って普通にまた考え始める。
3千円っすよ??さんぜんえん!!!叩いたって増えないお金がさんぜんえん!!!!
ほんともう、出てっていいですか?泣きそうな花井に、スサキはとあるガラスケースの前でチョイチョイと手招きをする。
重い荷物を抱えたままズコズコ歩み寄ると
そこにはちいさな真っ黒いイチゴに真っ赤なスワロフスキーがひとつだけチョコンとついたネックレス。
値札には9割引で3000円と書かれている。
「ぶっちゃけ3000円で買えるモンなんかコレしかない!」
そうキッパリ言い切った彼が見たのは、さっきとはまるで別の顔をしてガラスケースにかじりついている少年。
「あーでも大人っつったよな、年上か?イチゴとか―・・・」
「これください」
その言葉に全部もってかれちゃって。
スサキは丁寧にラッピングをしてあげて、千円3枚受け取って、笑って彼を見送った。
しこたま買い物に明け暮れて、車内はもう前も後ろも荷物でパンパン。
すっかり日の暮れた東京から、明かりも無い埼玉の県境で寄ったガソリンスタンド。
3人が眠りに入ったのを良いことに、車外へ出てんーっと背伸びをしたに
花井はそのガソリンくさい中、そっとプレゼントを渡した。
このトシでイチゴとか似合う?大丈夫?
倒れちゃうくらいかわいい笑顔の「ありがとう」のあとに心配をしてみせたが
ゆっくりそのネックレスをつけながら言う。
照れくさそうに「へんじゃない?」と見上げられて
なんでここ、さん家じゃないんだろーって本気で思った。
今抱きしめたいのに。キスしちゃって、好きだって言いまくりたいのに。
俺がさんにあげたものって
あん時あげたイチゴくらいで。
それでソレってのもあるけど
黒いイチゴに赤いフワロフスキーって
なんかさんそのものみたいだなーって、思うんスけど。
「似合ってます。むちゃくちゃ」
その言葉に、また悪戯っぽく笑って見せたって
ちょっと照れてるでしょ。
なんだよこの人、人の事ばっか照れさせるクセに
またもや卑怯で、そんでもって世界最強。
あーもーハイハイ
今日も結局
大好きでした。
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