4月28日。
もしかして、と、実は12時まで起きていたが
来るのは同じ中学のヤツや野球部のメンバーの「おめでとうメール」ばかりで
一向に、からのメールがこない。
朝起きて見てみても、新着メールの中にはおらず
あれ俺ってもしかして・・・と記憶を辿る。
そうだよ・・・俺、誕生日教えてねーし。うわーもー・・・しくった。アホくせ。
でもアレなんかな。俺今日誕生日なんスけど、とか言ったら、ガキっぽいよな。
うん、ここはスルーすべき。うん。
なんだよたかだか誕生日くらいどってことないよ!ぜんっぜんどってことない!!
どってことないっつってんだろ!!!悲しむんじゃねーバーカ!!俺のバーーーカ!!
Thank-you Smoking.-----45
昼休み、阿部と巣山と西広のお決まりメンバーで昼飯をつついていると
「花井君、マネジが呼んでるー」
クラスの女子にそう言われて、特に不思議に思う事なく席を立った。
廊下では篠岡が複雑な表情をしており、なんとなーくだが何かあったのだろうかと感じる。
花井がどうしたの、と言う前に。表情はそのままな彼女は、ぐっと彼を見上げた。
「花井君、さんと最近連絡とった?」
「え?」
反射的に顔が赤くなる。
「いや・・・1週間くらいは・・・なんもないけど、なんで?」
「何日か前から元気なくて・・・今日メールしたんだけど返事もないから、どうしたのかと思って」
心配げな表情の篠岡に、花井はのん気だった。
「仕事じゃない?」
「いや・・・そうならいいんだけど。何か知ってたらなって思って」
でもそうだよね、とまるで自分に言い聞かせるように笑顔を作った篠岡に
「まー・・・俺も連絡してみるよ」
そう言うと、お願い、と言われて。彼女が去っていく後姿を見ながら、花井はケツポケットから携帯を取り出した。
席に戻ってくるなりメールを打ち始めた花井に、阿部は普通に話しかける。
「さん?」
「え?あー・・なんか篠岡が返事ないから心配してるって・・・」
西広と阿部は顔を見合わせる。
花井に連絡がないのなら分かるが・・・実質あの役立たず極まりない水谷実行委員長より密に連絡を取り合うべきであろう人物が
篠岡であることは、ここ最近「俺さんと一緒ーだって実行委員長だもん」とあと少し自分たちが優しくなかったらボコ殴り
お前今俺が拳銃もってないことをありがたく思えなバカクソレフトを見ていれば分かるようなもので。
「な、んかあったのかなあ?」
わざとらしい西広に、状況の読めない巣山も「?」とキョトンとしている。
メールを送信し終わった花井が、とくに気にもとめていないようなのも今だけで
時間を追うごとに携帯を確認、センターにお問い合わせ回数はひどくなっていく一方で
さすがにちょっとどうなのかな?と阿部と西広ですら心配になってきたのを合図にしたように
花井はショートホームルームを終えるや否や、便所に携帯を持って駆け込んだ。
出ない。ウンコじゃない、さんが携帯に出ない。で・な・い!!
ぶっちゃけた事を言おう。さんは仕事中は電話には出ない。
でも何度もかければ、すごく怖いが愛しい声で「なんですかもー」とかなんとかゆってくれて
そんでもって自分はいつもああスイマセンと言いながらニヤニヤを隠せない。これが法則の公式だったんだ。
なのに、何回かけても何回かけても何回かけてもさんが出ない!!なんで!!??
思いのままに5回目の電話をかけると、トイレの向こうから声がする。
「はないー?」
田島だと気づき、あ、時間やべえ、と急いで鞄を持ち上げて。
集合してみて練習を始めてもてんで携帯の事ばかりが気になって
坊主頭に巡るのはが病気で苦しんでいるとことか事故にあって両手骨折して病院で青ざめているとことか
その想像は留まるところを知らず、果てはどこかの第三倉庫で両手両足縛られて猿轡をされ泣き叫んでいるだったりして
とにかくもうどうにもこうにも収集がつかない収まらない。誰か止めてやってくれ。
もちろんそんなとき練習なんかうまくいくハズもなく
目に見えてグダグダですオツカレサマでしたな部活が終わった。
正直、ここまで野球の事を考えずに野球をしたのは始めてで、自分ですら戸惑う。
すがるように部室に戻った花井が掴んだ携帯には
母親からののん気な
「今日はご馳走だよ」のメールで。
焦燥感でもう砂にでもなりそうな花井はかろうじて原型を留め
「阿部、今日カギ頼む」
の家への道を、全速力で爆走した。
インターホンを押して、押して、3回目でようやくドアの前に気配を感じて。
「さん?」
花井が見えるわけもない除き穴を見ても、向こうは暗いまま。
「・・・はないくん、ですか」
その超ド級に暗い声に、これはタダ事ではないな、とさすがに思うわけでして。
「そっす、花井っすよ。あー・・けて、くれませんかね?」
なるべく優しい口調を装う花井に、冷たいカギの音が聞こえる。
無言のままそっとドアノブを握り締めて引くと、電気がまるでついてないの部屋が広がっていて
どさ、とソファに倒れこむ音がして、花井は焦って靴を脱いだ。
静まり返った部屋に、今日は空気清浄機もお休みなかんじでしょうか。
恐る恐る覗き込んだソファの上、はうつぶせでピクリとも動かない。
花井はゆっくりと頭のほうまで足を進め、しゃがんで、見えない顔を覗き込んだ。
「・・さん?」
「・・・・・」
「どうしたんスか?体調悪いんすか?」
一瞬戸惑ったがそっと頭に手を乗せてみる。サラリと髪を手で梳いてみたところで、何も分かるハズない。
「さん・・・なんかあったんすか?」
「・・・・」
不安でたまらない。好きな人が何かしらの原因でこんなことになっちゃってる。
アハハと笑って黒ゴマプリンだのカンガルーがどうのだの鼻血のラクガキだの、そんなとは別人に見えてしまう。
花井は心底心配になってしまって、あの最悪な想像がとりあえず想像でよかったと胸を撫で下ろすヒマもない。
「・・・さん?」
「・・・はないくん」
くぐもった声に必死に耳を澄ませる。
よくわからないし、どうしたらいいのかも全然分からない。自分のボキャブラリーの狭さを感じてしまう。
ただ一つできることを覚えたように、花井は極めて優しく頭を撫でる。
次の瞬間聞こえてきた鼻水をすする音に、ピタリと手が止まった。
「な・・・泣いてます?」
「・・・ちがうよ」
「いやいやいや・・・な・・・なんかあったんすか?」
「なんもねー」
ぴ、と手を振り払われる。なんだか子供がスネてるのそのままだと思うと
いっきに心にドバーって何かがあふれだしてきて、もうほんっと、一気にいとおしくなってきて。
払われた手で肩を掴むと、いやがるを花井はあおむけにした。
「なっ・・にすんだよお」
「いや・・・なんで泣いてるのかなーと・・・」
「・・・・・・・泣いてないっつーの」
「ぶっさいくになってますよ」
その花井の笑顔に、カッとなっては必死に手を振りほどこうとする。
あまり力を入れてなかったせいでいとも簡単に取り払われた手だったが、飽きもせず今度は濡れた頬を包み込む。
「もー・・・やめてよぉ」
「なんで泣いてんのか言ってくださいよ」
「・・・・・・・・いえない」
「仕事の事っすか?わかんねーけど聞きますよ」
「ちがっ・・・」
「じゃあ何すか?」
優しすぎるんだよ。なんだよ、最初は怒鳴って手も離してくんなくて、挙句キスとかまでしてきたクセに
たった2ヶ月とちょっとしか付き合ってないのに。
なんでそんなふうに笑うの。なんでそんなふうに・・・なんで―・・・
「はなっ・・・いくんの」
ぐじゅ、と鼻水をすする。花井は自分の名前が出てきた事に驚きながら、そっとの上半身を起こして
支えるように体を滑り込ませ、ぎゅっと包み込んだ。
「俺の?」
「花井君の・・・誕生日、ぷれぜっ・・んと、なんも買えなくて・・・」
「は?」
何?そんなことで泣いてんの?
不謹慎にもふっと笑ってしまった花井に、の肩がビクっと震える。
「買えなかったの。・・・これから、色んなことあると思うと、なんも買えなかったの」
話の筋が見えないまま、花井は自分のシャツがギュッと握られている事に気づく。
「なんでそんな事―・・・そんなんいらねぇのに」
「そんなん分かってるよ。花井君だったらそう言うだろって、思った」
けど。
「けど、なんかあげたくて・・・でもそれって、ただ花井君のこと、縛って・・ることになる」
ビクビク小さな体を震わせながら。
ああさんってこんなにちっこかったっけ、そんなのが切なくて、確かめるように抱きしめる。
「縛るって・・・どうゆう事っすか」
「だって・・・だってさあ、わかっ・・・わ・・・」
はああ、と大きく息を吸い込む。嫌な予感が、花井の大きな背中をゾクゾクと駆け抜けていく。
こうゆう時の空気とか、カンっていうものは、いくらニブくてもわかってしまって。
嫌だなあと思ったけども、そんなん誰も許してくれなかった。
「別れたら・・・どーすんの」
「は?」
部屋のスミでは、何件もの受信メールと着信履歴を知らせる携帯の光だけがペカペカと時を刻んでいるようだった。
「別れるって・・・」
ドクンドクンドクン。地上最強、嫌な言葉。絶対聞きたくない言葉。絶対知らないままでいたかった言葉。
「だって・・・花井君、まだ17歳なんだよ?」
じんわり、涙が染みてくるのが分かる。いつの間にか抱きしめていた腕に力が入ってない事に花井は気づかず
自分が口走っている事の恐怖が、そしてその腕の力のなさが、を締め付ける。
「これからいっぱい・・・色んな人と付き合ってくんだよ。そんなん考えちゃったら、今好きってだけで・・・」
今好きってだけで、縛れない。
「俺・・・だ、俺、さんと違うコと付き合うとか・・・考えらんないっすよ」
「みんなそうなの」
ああいやなデジャヴ。あああああもう、ほんっと嫌な感覚。
あのときの『今だけ』のそっくりさんが、花井に黒い影を纏わせようと近づいてくる。
「みんなそう思ってるよ・・・好きなときは。でも、好きじゃなくなるんだもん」
「かっ・・考えらんないっす」
「でもそうだもん。あたしだってそうだったもん」
もっともっと、もっともっともっと単純に考えられたら。
高校生だったときのように、彼の喜ぶ顔だけを考えて、なにかをあげられたら。
自分が花井君と同い年だったらいいのに。
なんで7年も先に生まれてきちゃったんだろう。
なんで7年も・・・色んなこと、経験しちゃったんだろう。
花井君に出会うまで全部我慢しておけばよかった。
恋愛も、セックスも。
ぜんぶ花井君にあげればよかったんだよ。全部花井君のために、
せめて、とっておけばよかったんだよ。
溜まっていた膿を吐き出すように、堰を切ってまくしたてて涙を流したに
花井はぐっと手を握って
ぺち、と両手での濡れるほほを叩いた。
「何言ってんすか」
「なんっ・・・」
「俺、さんの事好きっすよ」
開きかけた唇を、両親指で押さえつけられる。聞いてください、とだけ、うつむいた花井が言った。
「7こ年上のさんが好きです」
「っ・・・」
「色んな経験して、全部ひっくるめてさんじゃないっすか」
何て言えば良いのかわからない。うまく言葉が出てこない。今、頭の中の整理をするなんてムリ。不可能。
「っ・・・なんつーか・・・そうゆうさんが、好きなんすよ!!」
「むっ・・」
「そうゆうさんの事、今ずっと見てたいしっ・・・これからもずっと・・・ずーっと俺が彼氏で、見てたいんすよ!」
ぼたぼたと再び落ち始めた涙が、花井の大きな手をぬらしていく。
ふと力を緩めると、はまるで子供のように泣きながら
花井の背中にぎゅっと抱きついた。
「そんなん・・・そんなん言われるたびに不安だよぉ。いつか別れたとき思い出すとか、思うと、不安でしょーがないんだもん」
「なんで不安になるんスか!俺別れねーっつってんじゃないっすか!」
「そんなんわかんないじゃん」
「わかんないんだったら不安になんないでくださいよ!」
「わかんないから不安なんだよおおおお」
ビエーン!!!となき始めたを抱きしめる。
ああもうどうしたら伝わるんだろう。どうやって抱きしめたら、どうゆう言葉を使えば
もう死ぬほどを愛してるってことが、伝わるんだろうか。
どうあがいても、愛ってものがカタチになることはないと思う。
カタチに愛をこめたところで、実態はないんだから、大事にしまっておいたところで淡く消えていったりしてしまう。
だから不安で切なくて、人は泣くんだ。
好きなんだ。好きでどうしようもなくて
所詮別々の固体なのに、溶け合おうとして抱きしめるんだ。
どうしたらいいんだろう。今この胸の中で、自分がいなくなる想像だけで止め処なく涙を流す恋人を
どうしてあげられるんだろう。
きっと好きな以上はずっと、こんな不安と隣り合わせ。
いつだって、手に入れると同時に失うときの不安を考えてしまう。
でもどうせ不安なんだったら
「俺はー・・・さん相手だったら不安くらい持ってられますよ」
「・・・っ・・・」
「さんだったらいいっす。もー・・・不安くらいしょーがないっす」
こんな、どうしようもないくらいステキなさんの彼氏って言えるんだったら
不安くらい請け負わないと、全人類の男性に示しつかないんじゃないっすかね。
ぽんぽん、と、落ち着かせるように背中を叩く。
はまたぐじゅっと鼻水をならして、なんともブサイクな情けない顔で花井を見上げる。
ああ可愛い。俺の彼女だ。
ふふっと笑うと、おでこにキスをして。
花井は自分の顔はとっくに真っ赤なのも忘れて、顔を覗き込む。
「さんは、俺じゃダメっすか?」
「なっ・・・」
「俺くらいじゃ不安になんのも嫌っすか?」
「・・・・・・・・・・・・・」
「そのー・・・・俺はなんつーか・・・ぜんっぜんさんの彼氏としては役者不足ですけど・・・」
「・・・・・・・はないくっ・・・」
「こないだ身体測定ありました」
「へ?」
「184になってましたよ。もうちょい伸びると思います。そしたら」
こみあげてくる。シャツはもうびしゃびしゃで、握り締めたせいでくっしゃくしゃで。
「そしたらもーちょっとは、さんの事まもれるよーに・・・なるんじゃないか・・・と」
その時。
突然顔の熱さに気づいてしまった花井は
しゅうしゅうと崩れるように言葉を失った。
俺なにいってんの???・え???俺?今の俺?
はっ・・・・・・・・・・はずかスィいいいイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!!!!
バッフーン!!と破裂した花井が、もう何の涙だか分からないほどの涙目でゼェゼェと息をし始めて
ふと気づくと
胸の中、が肩を震わせていて
ほーらね、聞こえてきた。
「ぷっ・・・・・・・・・ははは。」
花井君の大好物、の笑い声。
「ははは。あはははは」
「っ・・・ちょ、あの」
「あはははは。ちょっと花井君、かっこよすぎるだろ今のは!」
腹を抱えて笑い出した小さな体は
それでもさっきよりずっとでっかくなってくれたようで。
極限恥ずかしいのに嬉しくて
花井は慌てふためきながらも、やっと安心した。
「さん、ちょ、今のなしで!」
「やーもー、ムリ!!」
「あああああああもおおおおおお!!!」
「あはははは」
そんでしたキスは
なんだかずっと待っていたソレのようで
涙の味がなんだか甘いなあなんて
おもってしまったりした。
「ごめんねなんも買ってなくて」
「いや・・・いいっすよ」
「でもなあ」
抱きしめあいながら、ぽすっと自分の右胸に頭をおいたを見て
花井はそばにおいてあった鞄から、手探りで携帯を取り出す。
「この部屋の中にあるもん、いっこもらってっていいっすか?」
その言葉に、そんなもんでいいならなんでもあげるよ、と即答すると
花井は部屋の電気をつけて
「」
「へ?」
カシューン。
携帯で、の顔を撮った。
「なああああああ!!!なんでっ、ちょとおおおお!!」
「保存」
「やめてえええええええ!!!」
鏡なんか見なくても、どいひーな顔だという事はハッキリと分かる。ブサイク選手権堂々ナンバーワンだ。
手を伸ばしても花井から携帯を奪えるハズもなく、は散々文句を垂れた。
「なんで今この顔撮んの!!こんなぶっさいくな!!」
「いやいやかわいいですよ」
「うそつけ!!!ちょっとまじで消して!本気で、お願い!」
おっぱい撮らせてやるから!だって。おっぱいより顔が嫌だなんて聞いたことねーよ・・・。
「なんでもくれるって言ったじゃないっすか」
「あげるよ!あげるから消してよ!」
「これでいいっす」
「キイイイイイイ!!!」
だって
俺ん事考えてこんな顔なっちゃったんでしょ。
そんなん愛しい以外の何物でもないでしょうよ。
「あーもー好きっす、むちゃくちゃ」
「ほっ・・・ほだされないぞ!!!そんなんでうやむやになんかしないぞ!!」
「ははは。じゃあ一生忘れないでください」
「忘れるもんか!」
忘れないよ、一生。
というか
思い出す程もないくらい
一生一緒にいませんか?
あーだめだめ。それはまだ早い。
今はまだこうして不安のまま
たまに弱気なを見るのも、いいと思うから。
その日
遅く帰ってきた花井梓のために、小さめのケーキが用意されていて
もしゃもしゃと甘みを味わっていると
ようやく、待ちわびていたメールが来た。
件名:ギリギリセーフ
本文:17歳おめでと。今日はありがと。
受信時刻は23時58分。
こちらこそありがとうございます。
大好きです。
その返事はもう
今日中には間に合いそうに無い。
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