まず、午前中から矢倉の家に集合。
各自買出し、会場セッティング。
13時の練習に間に合うように各自時差を考えて学校に向かい
その間、と浜田はひたすら準備。
練習が終わったら前もってお願いしてあった百枝に
『花井君と巣山君、ちょっと頼まれてくれない?』
そしてその用事中百枝は携帯片手に猿芝居をかまし
『たいへん!矢倉君が倒れちゃって今相模君がアタフタしてるの!みんなにも連絡するから2人で様子見てきてくれない?』
完璧。あたし天才かも。
そう自負したバカのせいで、矢倉は今日の練習を「倒れる」フラグ立ての為気分が悪そうに行わなければいけなくなった。
「俺自信ないっすよ」
「だいじょぶ、いつも通りで!」
「俺野球やってるときだけはイキイキしてるってご近所で評判なんだっつの!」
「うっせー!」
そんなやりとりを笑って見ながら
なんかこの2人、姉弟みたいだなー・・・なんて。
Thank-you Smoking.-----46
じーっと見られる。じーっと。もうしげしげと見られすぎて、耐え切れなくなった浜田は遂に声を上げた。
「さん・・・やりにくいっす」
「いや・・・ハマちゃん上手だねえ」
心のだだっ広い矢倉の両親は、家のキッチンまで提供してくれて
わざわざバイトを休んでくれた浜田と、手の中にある黄桃の缶のフタを一向にあけてくれない。目線の先にはきれいにヘタのとられていくイチゴたち。
「んなヘタくらいで・・・」
「いや、あたし絶対ぐちゃぐちゃにする自信あるわ」
ああ多分これは本当の事なのだろうと思い浜田は苦笑する。
「さんはお料理しないの?」
後ろでテレビを見ていた矢倉ママが振り返った。
「う・・・」
「ははは。いっつもコンビニかあ」
横にいた矢倉パパも笑う。
「それじゃお嫁に行けないぞー?」
「ううう」
「いいのいいの、困ったら真紀のお嫁さんになってくれれば」
矢倉ママの発言に、浜田のかろやかな行動が奪われる。心配過剰で隣を見ると、まだ缶切りを持ったままのは高らかに笑った。
「あははっ。ヤグ超嫌がりそう!」
「だってあの子はじめて女の子家に呼んでくれたのよー?」
「こんな彼女だったら俺は大賛成だけどな」
「そうよ、もらってやってよお。あのコ口悪いでしょ?絶対モテないの!」
おいおい・・・と思いながら浜田は苦笑いをキメこむ。すると、ハッとなって矢倉パパが口を押さえた。
「まさか、浜田君が彼氏だったりする?」
うっわーオジサンなんかマズい事言っちゃった?ぱん、とデコを叩いた親父に浜田は真っ赤な顔で絶句。
かたやは笑顔を失わず、喫茶店でのときのように浜田の背中をパンと叩いた。
「ハマちゃんはりょーりができる子がいいってさー」
そんな事言ってないのに。結局アハハでうやむやにしてしまった大人テク。見ほれるぜチクショー。
でもヤグは弟ってかんじだな、と本人のいないところで結果出されちゃって
なんかしんないけど、矢倉オマエかわいそうだな今夜飲みにでも行くか?みたいな気になってしまった。
時間的に失敗している余裕はないので、スーパーでケーキのスポンジを2つ買ってきた。
ひとつは生クリームたっぷりの白いフルーツケーキ。
もうひとつは・・・・・・・・・・・
思わず手を握ってしまった。は心底それが疑問のようで、信じられないという表情で浜田を見上げる。
しかしどっこい、浜田だって信じられない。
「入れすぎですって!」
「え???」
じゃっじゃーん、とクソみたいな効果音を自分でつけて
が取り出してきたのは食紅やら黄色紅やら七色の星型の砂糖やらカラースプレーやら仁丹みたいなアラザンやら毒々しい緑色の砂糖漬けチェリー。
血の気がひいていくのを感じた浜田は、とりあえずの方向性を探ろうと話を聞いてみると
あのね、生クリームをまず染めるでしょ?そんでもうオマエコレ食えんの?みたいなケーキにしたいの!
なんでわざわざ食えそうもないケーキ作んの?頭だいじょぶ?わいてんの??
浜田は絶望感を背負い込み、とりあえず俺がしっかりしていれば大丈夫、と気を確かにした浜田の目の前
ツノを立てた生クリームの中に、さも盛大に、は食紅をこれでもかと入れた。
握られた手の中には、フタのあきっぱなしの食紅。
「これじゃまだ薄いピンクだよ?」
「いや、もうこれはピンクです。どピンクです」
だからまじでやめてください。そう言おうとすると・・・はにっしっし、と笑った。
やべ、かわい・・・・・・・・
「んじゃ蛍光ピンクで!!」
「ぎゃああああああああああああああああ!!!」
「たいへん!矢倉君が倒れちゃって今相模君がアタフタしてるの!みんなにも連絡するから2人で様子見てきてくれない?」
「「は??」」
ポッカーン、と口をあけた浜田と巣山に一瞬怯んだ百枝まりあ。
あんのバカ!だからムリって言ったのに、もう!!
百枝と篠岡が知恵をしぼって(ツメが甘いんだよ!)出し合った結果
『冷蔵庫の下に篠岡の家の鍵が入り込んでしまってどうにも取り出せないからガタイのいい2人でなんとかしてください』
というとんでもない言葉により、不可解に思いながら2人は練習後わざわざ冷蔵庫を動かし
見るからに無いと言うと『じゃあ排水溝かも』と無理難題を突きつけられてほっそい棒を探してきた矢先。
「いや、なんで俺らが?」
「家の人いないんスか?」
その巣山の言葉に助け船。
「そう!おうちの人誰もいないんですって。」
だからお願い!と両手をあわせた。なんで自分がこんな猿芝居をと思ってやまなかったが
可愛い部員の、可愛い計画のため。
2人は顔を見合わせ、首をかしげたが・・・はい、と言って割とスンナリ腰を上げてくれた。
もうあとはしらないよ。、せーぜーうまいことやりなさいよ、もう!!
「あれ?ここだよな」
「ダーツバー・・・なんだよね?ここじゃん?」
「あ、花井先輩!巣山先輩!」
「おー相模・・・矢倉大丈夫か?」
「やばいんすよ!もう俺どうしたらいいのか・・・」
「とりあえず様子見させてよ」
「はい!こっちです」
「え?店から入んの?」
「え?あ・・・はい、こっちなんです!」
「?」
「?」
「うわっきたよきたよ」
「クラッカーみんな持ってる?」
「阿部、入ってきたら電気だからな!」
「っせーなわかってるよ」
「シー!!もう来る!」
「やべ、俺緊張してきた・・・」
「あかん!俺のクラッカーどやったら発射なん?」
「テメー自分でソレがいいっつったんだろ!」
「もー黙って!くる・・・」
「えーっと・・・・やぐら・・・・・・」
「はっぴーばーすでえええええええええ!!!」
パン!!と音がして、急に店内が明るくなって
クラッカーのケムリの匂いと、美味しそうな匂いがごっちゃになって
目をまん丸にした花井と巣山の目の前に
さっき別れた部員や、カギをなくしたハズの篠岡までいて・・・さんまでいて。
「17歳おめでとー!!」
「はない、すやまおめでとお!」
「「あ・・・はあ」」
ようやく、ああ、これってサプライズなんだって気づいた瞬間
いっきに顔が赤く染まっていく。
「なっ・・・なんだよお前ら!」
「おたんじょーび会セッティングチームでーす」
「びっくりしたあ〜」
「巣山、遅くなってごめんな!」
「わ、っつかどうしたこの料理?」
「みんなで作ったんだよ」
はい、と篠岡がオレンジジュースの入ったコップを花井と巣山に手渡した。
よく見ると、全員同じコップを持っている。
ん?と思った次の瞬間。水谷がニヤニヤしながらカウンター席から立ち上がる。
わざとらしく咳払いをすると、全員が水谷のほうを見た。
「えーホンジツはー」
「水谷ぃ、早くしよーぜ!」
「あー・・・はい。コホン。ではワタクシ水谷こと実行委員長が代表しましてカンパイの音頭をとらせていただきます」
コップを高々と掲げると、隣にいたも同じようにコップを上げる。
それにならって全員が手を挙げ終わると、水谷は満足げに声を上げた。
「巣山、花井たんじょうびおめでとう!かんぱーい!!」
「「「「かんぱーい!!!」」」」
美味しそうに並んだからあげにエビフライにベーグルサンドにピザにパスタ。
それぞれ欲しいものを我先にとつまみながら、わやわやがいがい宴が始まる。
「超美味しいよ」
そう感動の声を漏らす巣山に、ああやってよかったと栄口は微笑む。
街のダーツバーは幼稚園のお遊戯会のように色紙やらなんやらで彩られ
邪魔しちゃ悪いからとデートにでかけたという、これを許してくれた矢倉の両親にも本当に感謝。
「男の人にはどうかと思ったけど」
両親がどうしてもって。そう言って遠慮がちに白と黄色の花束を出してくれた九条。
いや普通になんか嬉しい。俺花束もらのなんて初めてだよ、と先輩2人は照れくさそうに笑う。
そして
あははうふふの幸せな時間をチョン、とかわいくチョン切ったのは
他でもない、だった。
「じゃあそろそろいきますか」
「えー?なにすんの?」
横にいた田島の頭をわしゃわしゃ撫でて、はニコっと笑って小さな紙とボールペンを全員に渡す。
「それに一つお願い事書いて。あ、ここにいるみんなで実行できる範囲で」
「え?」
ざわざわと疑問の声を上げるメンバーに聞こえるように
はカウンター席から声を大にした。
「だいいっかい西浦野球部ダーツ大会ー!」
わー、と水谷が拍手をする。
どうやらこれはこの2人の悪戯ッコが考えたようで、一応店の人間である矢倉もポカンとしている。
「おんもしろそー!!」
田島がパーッと顔を明るくする。
「ほいで、この紙は何なん?」
紙とペンを片手に瀬良が手を挙げる。
「優勝した人はお願い事かなえてあげまーす」
「マジっすか!!??」
「マジっすよー」
「え、なんでもいいんスか?」
「できる範囲ならね。あ、甲子園とか書かないでよー」
そんなんみんな一緒だから。
ちょ、見るなよ!いやいやおまえこそ見てんじゃねーよ!
ああどうしようえーっとうーんと。
一時お願い事に専念しはじめたメンバーの中
花井はどうしようかと迷っている。
甲子園がダメとなると・・・自分の願い事なんかしかなくて。
そんなん書けるワケねーっつの。どんだけハズカシイんだよ。
グラウンドの草むしり?掃除当番交代?そんなツマラナイ願い事しか浮かんでこない。
タオルの上から頭を抱え始めた花井に聞こえてきたのは
高らかな予告優勝宣言。
「俺のちゅー!!!」
拝啓・無敵田島さま。
それだきゃあ勘弁してもらえないっすかね!!!!!?????
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