阿部が持って帰ってきたのはキッチンペーパーにくっついたチョコレートで
もはやチョコレートというよりはチョコ味のキッチンペーパーで。
どうゆう事かと今にも噴出しそうなが訪ねると
悔しさなのか悲しさなのか、とにかく死ぬ寸前、お前もうソレ死相って言うんじゃね?
みたいな阿部はゆっくり語り始める。既に顔の色は無い。
瀕死の思いで暖めてくださいと言うと、真面目そうなバイトのお兄ちゃんはアタフタしはじめ
店長を呼んできたらしい。
やぶれかぶれになった阿部が何度も説得されながら「いやあっためてください」と言うと
とにかく包んでいるホイルは発火して危ないから、と
レンジでも大丈夫なキッチンペーパーをわざわざ敷いてくれ、まるはだかのチョコを約1分、温めてくれたという。
「なんか地獄温泉みてーに・・・ポコポコ泡だってて・・・」
腹筋が割れそうなほど全員が笑った。
遅れてきた百枝も相当笑っていた。と水谷は、この罰ゲームを考えた自分たちを天才だと豪語し
テンションさめやらぬまま美味しいケーキと毒ケーキを食べて
最後にハッピーバースデーを唄い、解散した。
俺、本来ならもっと優遇されるべきなんじゃないかなーとフザけ半分で言った巣山にまったく同感しながら
花井が見上げた夜空は、星がとってもキレイで。
「いやー、楽しかった」
そんなふうに背伸びをした浜田を、ちょっと笑った。
Thank-you Smoking.-----48
「これで説明は終わり。なんか質問ある人ー?」
練習前、百枝は明日から始まる合宿の説明をしていた。
去年と同じ場所なので2年には要らないお世話だったが、1年には説明しておかなきゃいけない。
合宿許可の親のサインはもうとっくに集め終わっているし、なんだかんだで準備も整っている。
今年はGW自体が少ないから、結構すし詰めのハードスケジュールになっているが仕方ない。
「最終日の練習試合は、今年も三星とやるからね」
「は?マジっすか?」
「あっちも1年中心で、去年メンバー何人か入れて来るって。よぉっぽど悔しかったんでしょうねえ〜」
去年の負けが。ゾクゾクッ、と肩を震わせる百枝にツバを飲む。あーあ、スイッチはいっちゃってまぁ。
「成長したとこ、見せ付けてやりましょう!」
「うす!!」
ぽん、とファスナーがしまった鞄を仕上げに叩いてみた。
明日からたった4日だけの合宿が始まる。なんでも百枝が言うには色々試してみたいらしく
今回は桜の間に花井も投手として少し参加するらしい。
何気なくボールを掴んで、ふんわり宙に放ってみる。素手で受け止めたじんわりとした痛みが心地よい。
すぅっと息を吸い込んだ直後、電話が鳴った。
着信:
いっきに胸が高鳴って。いつまでたってもからの電話っていうのはドキドキしちゃって。
一呼吸おいてそっと通話ボタンを押せば、いつだって無限大の嬉しさがぶわっと広がる。
『あ、花井君、おつかれー』
「ども、こんばんわ」
『明日っから合宿でしょ?チヨちゃんに聞いたよ〜』
ふーっと音がする、煙草のケムリを吐く音。
「はい。さんは仕事っすか?」
『んーっ、まあね。』
「今どんなんやってるんスか?」
『えーそんなん秘密だよ』
ケラケラ笑う声が愛しくて。あーあ、今日くらい会っておけばよかったなんて、今更遅い。
たった4日離れるだけ。今までだって一週間連絡とらないことだってあった。
なのになんでなんだろう。今だって一緒に住んでるわけじゃないのに・・・ちょっと離れるだけなのに
チャリこいでも会えない距離ってだけで、なんだか寂しくなってしまう。うわ、俺甘いな。
『明日何時集合なの?』
「あー、5時っす」
『まぁじ??はやっ!!』
「普通っすよ。高校帰宅部にはわかんねーと思いますけど」
『っせー!・・あ、ってか寝るよね?ごめんね遅くに』
ふと時計を見ると、午後11時。
「いいっすよ、どうせ起きてたんで」
『ま、がんばってくださいね』
「はい」
そのあとつい笑っちゃったのは
2人の「おやすみなさい」が見事シンクロしたからで。
そういえば付き合ってると似てくる・・・っていうのはホントなんだろうか。
俺、さんみたいになるのかなあ。・・・さんが俺みたいになるってのは想像できないし。
もしさんみたいになれたら・・・幸せかもな。
ふわーっと眠りに落ちた、23時10分。
あと6時間もしないうちに、花井はと離れ離れになる。
「まぁなんつーかさ・・・よく1年でこんだけ復活するよね」
「ここ他の人使ってねーの?」
「使うわけねーじゃん・・・こんなオバケ屋敷」
到着した直後、見上げた合宿場という名のオバケ屋敷は
1年前自分達が大清掃したとは思えないほど、すっかりその落ちぶれっぷりを復活なさっており
ちょっとはラクにいけるだろうなんて考えはてんで甘く、しかもいつの間にか住み着いていた女郎蜘蛛の住処にすらなっていた。
「ぎゃあああああああ!!あかん!!むっちゃこわいいいいい!!」
フトン干しに任命された瀬良が、押入れをあけて絶叫した。
同じくフトン干しの花井がひょいと覗き込むと、まぁご立派な蜘蛛の巣。
「うわー・・・なんだこれ」
「ちょ、花井先輩なんとかしてください!」
「んだよ瀬良、蜘蛛こえーの?」
「いやっ・・ちっこいのやったら平気やけども・・・普通あかんでしょこんなん!」
震える指の指す方向には、まぁまるまるとお太りになられたグラマーな女郎蜘蛛。
「まあ・・・」
花井だってそこまでにはないにしろ、これが襲い掛かってきたら逃げ出す自信はある。
うーん、とうなった直後。
「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」
空間を切り裂くような、誰のものかまったくわからない悲鳴が聞こえてきて花井と瀬良は急いでトイレに向かった。
「ちょ・・・まじでムリ!!!ほんっとムリ!!!!」
トイレの前ではガタガタと震え上がる井上を、栄口が苦笑しながらまぁまぁとなだめている。
しかし、いつもはそれなりに温厚で大人っぽい井上がこれほどまで取り乱すとは・・・
覗き見た先には、トイレが私の白金よといわんばかりにこちらもたいそうグラマラスなマダム・女郎蜘蛛。
「井上〜そんな怖くないって」
そんなユートピアの言葉も、今の井上には一切効果は無い。
「俺、ほんっと・・・蜘蛛だけは!!!こっ、言葉にするのもイヤなんです!!」
「なぁに、井上蜘蛛ダメなの?」
「俺っ・・・昔、母さんに出されたうどんにぽたって・・・く、くも、が落ちて来て以来っ・・・」
わー!!!と本気泣きを見せる高校一年生に、集まってきた全員が、ああカワイそうにと同情にも似た哀れさを感じる。
「栄口先輩・・・俺、できません・・・ごめんなさい」
「そんな事言わないでさあ・・・」
その時、スッと影が落ちて。
ほうきを持ってきた九条が、極めて優しい手つきで巣ごと蜘蛛をからめとった。
「クジョー・・・」
「なんもしないって。ほら、かわいいモンじゃん?」
悪意は無い。悪意は無いんだけども。
「ひぎゃああああああああああああやめてええええええええええ!!!!」
ブン、と近づけられて顔面スレスレ女郎蜘蛛。後から聞いた話だが、井上はまじでションベン漏らすと思ったらしい。
ドタバタ逃げ出す井上に、花井ははぁと溜息をついて近くにあったほうきを手にする。
「とりあえず蜘蛛逃がすぞー、もーはじまんねーから」
2年も1年も、とりあえずそれに習って各自ホウキやらナンやらで屋敷内の蜘蛛を全て外に逃がす作業に追われる。
しかし、こうゆう時に・・・・
「あれ?三橋蜘蛛ヘイキなんだ?」
「うん!お、おれっ蜘蛛、は、へいきだ!」
三橋まで頼りになるとは思わなかった。
「かっこいーよなあ蜘蛛って!SFってカンジでさあ!」
「わっ、わかる!宇宙船、みたい、 だねっ」
「俺はモデルさんみたいにスマートでセクシーなカンジしますよ」
「ぎゃはは!!」
何この3人の会話!!??信じ難い、かつ全く理解しようもない田島・三橋・九条の盛り上がりに額に汗しながらも
なんとか見える限りの蜘蛛逃がしは終わり、ようやく一行は掃除に戻れた。
「おーい、誰か井上呼んでこいよー」
「あ、なんかイガはさっきカントクの手伝いに行きましたよー?」
あ、っそう。気にするふうもなく、フトン叩きに専念する花井だった。
「男前に撮ってくれたんか?」
「いやーもー、ほんっと男前」
にこっと笑ったに、おじさんはカッカッカと豪快に笑う。麦藁帽子に汚れたTシャツがよくお似合いだ。
田舎特有のだだっ広い家に、果てのないようなでかい庭。
「いやでも・・・かわいいっすね」
「ねー」
井上がそっと手を伸ばすと、濡れた鼻でウリ坊ことイノシシの子供はふんふんと指先をくすぐる。
普段はもっぱら山でイノシシやら鹿の猟を生業としていらっしゃる、こちら松崎さん(65歳)。
いつもなら気にせず殺して食ってしまうところだが、どうやら2日前このウリ坊が1人で怪我をして弱っているところにでくわし
なんだか情がわいてしまって、つまるところペットとしてイノシシを引き取っている―といった経緯らしい。
「けど、お嬢ちゃんら合宿するんだろ?山には入んのかい?」
「あ、あとで山菜取りに行くって・・・」
井上がウリ坊を撫でながら答えると、松崎さんの表情が少しだけ曇る。
「いや・・まあ大丈夫・・・?うん?うーん・・・」
「え?なんすかそのリアクション・・・」
「いやねえ・・・今年はイノシシ多いんよ。まぁ大丈夫やとは思うけど」
ま、気をつけて行ってこい!!!そんなかんじで笑われたって・・・目をあわせたと井上は絶句した。
5キロはある肉塊を抱えて井上が帰ってきた時には驚いたが
その後ろでかわいらしいポーチをさげて登場なすったにだって相当びびった。
「あ、おかえりー」
普通に百枝が出迎えたときだってビビっちゃう。もう、心臓何個あっても足りません。
「イガどこ行ってたん?うわ、なにそれ!!」
「イノシシの肉ー。もらっちゃった」
「ってかなんでさんいんの??」
「んだよ〜手伝いに来てやったのにぃ」
やいのやいの言いながら、花井はドッキンドッキンのバックンバックンで声が出ない。
だってびびるだろ!!!サプライズにも程があんだろ!!!??なあ??俺過剰反応じゃないよなあ???
しかし、思い返してみれば前家族で東京に行ったときだってだまされてたんだ。
つまりこうゆうサプライジングはさんにとっては当たり前なんだ。落ち着け、俺!
「よー花井君」
ん?いやぜんっぜんびびってませんよ?普通に、普通に!
「どぉも」
声裏返っちゃったー俺声うらがえっちゃったー!!!キャッホー!!
「あ〜さんソレかわいいー」
横から篠岡が顔を出すと、は嬉しそうに肩から下げたポシェットを目の前に出した。
「おっさんにもらったの〜バンビちゃんの皮なんだよーかわいいでしょっ」
こっ・・・KOEEEEEEEEE!!!おそろし!!!!
「えー!!かわいいっいいな〜」
「うふふ、実はチヨちゃんのぶんもあるんだよー」
じゃーん。
「きゃー!!嬉しい!かわいいーありがとうございます!」
「あとで一緒におっさんとこお礼言いにいこーねー。あ、ウリ坊飼っててチョーかわいいの!ねーイガ?」
「あーすっげ可愛かったっすね」
「やーん!!」
「イガもおそろいのシガケもらったんだよ!」
「あーかわいいいいい!!」
ちょ、ちょっと待てっつの!!なんだよこのチャーミングハイパー乙女ムードは!!??
おそろいの小鹿の毛皮のポーチとシガレットケースをいやんいやんと言いながら絶賛するこの2名・・・いや3名か?
なんだこいつら??どうなっちゃってんの???
っつか篠岡ならまだしも井上ともおそろいってそりゃどうゆう事っすか??俺のぶんは???俺のぶんはあ!!???
口をパクパクさせ汗をダラッダラかきはじめた花井に、阿部は噴出しながらポン、と肩を叩いた。
「・・・じゃ、俺ら行くから」
「・・・ヘイ」
桜・井上のバッテリーと花井・田島バッテリーは、別で集中練習する事となった。
まだ実際試合の主力としては三橋・阿部ペアだったが、今回の試合ではこの2組を使う気なのでこっちに集中させていただく。
そして残りメンバー全員でお山へ山菜取りに。
興味本位むき出しであたしも行くと付いて行ったに、あんな話聞いてよく・・・と井上はちょっと思ったらしい。
「あーぜんまい発見〜」
うぶ毛の生えたぜんまいをプチッととりながら、栄口は何故かこなれた手つきで順調に山菜をカゴに入れていく。
そして蜘蛛事件に引き続き、ここでも九条様はとてつもなく頼りになった。
「クジョー、コレ食える?」
「”くさそてつ”っすね。全然イケます」
九条翼、実家は花屋をやっております。地球上の全ての生き物を愛で包んでいます。つまり、神のようなお人です。
「く、じょ・・・くん、これ はっ?」
三橋がオドオド差し出したいかにも食えそうに無い葉ですら、ニコッと笑って受け取る始末。
「あ、これ”ぎょうじゃにんにく”っすよ」
「えっ にん にく?」
「はい、ニンニクみたいな味するんスよ。でももうちょっと若い葉のほうがいいかもしんないっす」
「うん!」
まったくどっちが先輩なんだか・・・。そんな九条が慕っている西広も、やっぱタダ者じゃないのかって気がしてしまう。
なんだかホワンとした雰囲気の中・・・山の中に、瀬良のわめき声が聞こえた。
「あかんてさん!」
「いや絶対食えるから!ちょっとみんなああーこっち来てえええ」
「せやからあかんって!もー見た目がアカンでしょう!ちょ、あきませんって触ったら!」
「そんなんわかんねーだろ!クジョー!!見て!」
まったくもって意味不明だが、まるで宝物を見つけた少女のようには興奮状態で
手をひっぱられてみてみてと言われた九条の目の前には―・・・・
「すごくない??これマリオの食ってたキノコだよ!パワーアップできるよ!!!」
もうほんっと、マリオのキノコが目の前にあった。
赤に白の斑点。
「いや、ほんま絶対あきませんって!クジョーあかんよなあ?コレあかんよなあ??」
なんとかしての手を必死でふさいでいる瀬良には、今「あ〜さんと手繋いでる」みたいな感慨にふけるヒマすらない。
「うわっきもちわる!!!なにこれ!?」
駆けつけた阿部が極限嫌な顔をする。栄口は絶句状態。
「いや・・・確かにそのものってカンジだけど・・・」
「リアルだとこうも気色悪いモノになるんだね・・・」
西広ですらフォローのしようもないほどに、そのキノコは薄暗い山でひときわ鮮やかさを放って光り輝いている。
「なんでだよ!みんなパワーアップしたくないの?でかくなりたくないのか!!??」
いやだからさん!それ冗談なの?本気なの?その笑顔って絶好のネタ見つけたときの顔???
そのとき、押し黙っていた九条がスッと立ち上がり
瀬良の手をのけ、ぎゅっとの手を握った。
「さん・・・・」
「・・・はい」
「これは・・・」
「うんっ」
「これは・・・”ベニテングタケ”です」
「はい?」
食べると下痢や嘔吐、幻覚などを起こす毒キノコです。
はい、お疲れ様でした。
いっきにやる気を失ったは、何故かさっきから瀬良に手をひかれてダラダラ歩いている。
本音を言えば、の手をひきたいのは全員同じであるし、しょーじき瀬良まじ代われコラ状態であったが
そんなロコツにいえるハズもなく、ズコズコと全員また山菜を求め山道を歩く。
「もーいつまでヘコんではるんすか」
「だあってさあ・・・・クジョーも言ってたじゃん、食えないこともないって」
「ちょっとやったら食えんこともなきにしもあらずみたいな感じやったやないですか」
「・・・・食えんじゃん」
「あぶなっかしー橋渡らす気ぃですか、俺らに・・・」
どーせさんは食わへんでしょーよ。そう言われ、は図星ちゃんだったようで黙った。
この人ってほんっと・・・いつかシャレにならない日が来るんじゃないかまったく。
「でも結構とれたなあ」
「ねー、もうちょっとしたら戻ろうか」
見上げた木のスキマから、うっすら赤みを帯びた空が見える。
日の暮れる前に下ろうという話になり、一同隣ルートから山を降りることにした。
「でもほんっと九条すげーな」
「いやいやそんな。ちょっと詳しいだけですって」
「いや、アレんなれんじゃね?山のコーディネーターみたいのいるよね?」
「あーいるいる!」
「いやいや」
あはははは。あはははは。あはははははは
ひくん!!!!
ギュッ!!!と巣山がTシャツのスソをひっぱられ、振り返るとある一点を見つめながら震えている相模がいた。
「相模?どした?」
「せんぱっ・・・今なんか・・・」
「え?」
なんだよ相模どうした?全員わらわらと集まってくる。少し遅れて瀬良とが合流しようとした時だった。
「今なんか・・・あの、木のむ、向こうに・・・」
「へ?」
指差す方向を見るが、何も見えない。
「リョーちんオバケとか言うなよーウゼーからあ」
矢倉が笑いながらポンポンと相模の頭を叩く。すると。
今度は全員が確認できるほど、大きく何かが揺れた。
「え??」
「え!!??なに今の??なんかいた??」
「おおおおおおお」
三橋が震え上がり始める。阿部はしたうちをしながら、なんだよもうとそちらに足を踏み出した。
「なんすか?」
瀬良が一番近くにいた沖に話しかける。
「いや・・・今なんかいた・・ような?」
その瞬間、がハッとなって顔を上げた。
「あああああ」
「な?さん?」
「も・・・もしかして・・・い、いのしし、かもっ」
「はああああ!!!????」
ぶひひんぶひひん。我は猪なりよ。
そんなアテレコ、してる場合じゃないっつの。
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